実は自分に語っている

週半ばの7コマの授業は規則正しいタイムリミットとして自らを律してくれます。学生が聞きたいことを話すのが基本だと思うのですが、講義をしていると「人は自分に語っている」という格言を思い出します。気がつくと、人生を価値あるものにするものは何か、自分の人生を生きるとは、といった話をしています。仕事の意義を明確に語れる組織人は少ないような気がします。目指す目標を聞くと「毎日が平穏無事に過ぎる」といった模範回答をします。以前の自分なら「それで何が楽しい?」と聞いたのでしょうが、今の若者こそ人生の本質を捉えているのかもしれません。学生に話しているようで実は自分に問いかけているのだと思います。

全身にみなぎる生命力

自宅の近くを昨日歩いているとアラブ系の外国人が細い路地にダンプカーを誘導していました。その完璧な日本語もさることながら、息を呑むほどの鮮やかさで電柱と壁すれすれに大きな車を滑り込ませる技は、リズミカルで繊細な舞台芸術のようで見とれてしまいました。遠目にもやる気オーラを辺りに発散していることが分かります。一流企業で働く会社員と目の前の生き生きと働く作業員のどちらが幸せなのかを考えてしまいました。閉店した近所のガソリンスタンドにもやる気に満ちた元気なスタッフがいて、値段が高いのにその店で入れていました。生命力を全身にみなぎらせ完璧な仕事をする彼らが何に動機づけられているのかを知りたいです。一緒に働くなら彼らと働きたいと思います。

嗅覚の世界に魅せられる人生

ラブラドールと朝夕散歩に行くと嗅覚の世界に魅せられて一心不乱に、まさにゾーンに入ったように歩きまわります。犬も歩けば棒にあたるという人生訓は優れていると最近思います。元は犬がうろついていると棒で叩かれるという戒めでしたが、現代の解釈は好意的です。自分の直感と嗅覚を頼りにおもしろそうなものに興味をもつ好奇心さえあれば、人生の幕が次々と展開して新しい世界が広がります。以前は老後を心配しましたが、好奇心さえ持ち続けて今を生きれば、老後の心配はなくなります。人生がいつ終わるか分からない定めなら、せめて今日一日を自分らしく大切に生きたいと思います。自分らしく生きるためには少しばかりの情熱と勇敢さが必要です。

1割の生徒をつかまえる

ご多分にもれず日本工学院でも授業中に寝たりスマホでゲームをする学生は後を絶ちません。昔は申し訳なさそうにしたものですが今や当然の権利です。授業を始めた頃は怒ったり退出させましたが、「できない生徒など存在しない、存在するのはできない教師だけだ」というピーター・ドラッカーの教えに従い、授業のやり方を変えるようにしました。教育が最初にすべきことは学習意欲の醸成だと思います。日本の大学生の勉強時間が国際比較で極端に短いことは知られていますが、自分を振り返っても必要性がなければ勉強をしませんでした。学生による授業評価は定着していますが、学生におもねる教育に未来があるとも思えません。学生が授業を聞くか聞かないかは最終的には自己責任だと思います。ドラッカーはこうも言っています。「教員は上位1割の生徒をつかまえればよい。上位1割をつかまえれば平均的な生徒はついてくる。もっと下の生徒は祈るしかない」

復讐する快楽

昨日は以前の勤務先に行きました。通い慣れた場所なのに境遇が変わると景色まで違って見えます。3回の転職で14年、2年、14年、8ヶ月と4つの会社で働きましたが、不思議と勤続年数の短い2社の記憶が鮮明で自分自身を成長させてくれたと思います。ぼくが生き方を変えたのは海外不動産投資で失敗した時からです。借金こそしませんでしたが蓄えの大半を失い金に目がくらんだ自分の愚かさを呪いました。自分らしく生きるためには経済的手段の確立が必要だと思い込んでいたのです。当時は働かないで暮らせる人生が理想でした。大きな勘違いは自分らしさの捉え方にあります。その時の自分らしさは働かないという快楽を基盤にしていました。快楽を求める限りもうひとつの生き方である自己の成長はありません。人は快適な環境ではそこに留まり成長することができないからです。致命的なもうひとつの誤解は仕事を不快な義務だと思っていたことです。仕事こそ自分を成長させる最高の舞台であることに気づいたのは比較的最近のことです。

就職活動は恵まれない人のため?

この週末に留学する娘の高校で文化祭がありました。プログラムの表紙に書かれた「絶対全員主人公」の文字が目を引きます。立教大学で教えている頃から2割ほどの学生は就職に興味を示しませんでした。優秀な学生はジョブクリエイト(job create起業)を目指し、ジョブシーク(job seek就職活動)には関心がありません。講義のあと質問に来る熱心な学生は授業の内容ではなく、自分のビジネスプランへの助言を求めていました。イノベーションの権威である某先生が言うように、就職活動は恵まれない人がする時代になるのは目の前かもしれません。生活の糧を誰かに依存すれば、いつも何かに怯えて暮らすことになります。世界のソニーが「設立趣意書」を起草したのは終戦翌年の1月です。四輪車販売世界7位、二輪車と小型ジェット機世界首位のホンダが浜松市で起業したのも1946年です。GEM(Global Entrepreneurship Monitor)の調査によると日本の起業活動率は67カ国中66位とほぼ世界最低です。多くの日本人は仕事を創るという魅力的な選択肢を忘れています。主体性を失い守りに入れば人は老います。既得権にしがみつく老害が巣食う社会を終わらせる第二の戦後こそ日本が生き残る道だと思います。

30年を突き抜ける狂気

世の中には性善説と性悪説の二つの会社があり、その中間はないと思います。信頼が全てであり、一度疑えば全てを失います。性悪説の企業では良識的に振舞っているつもりでもルール違反を問われ、管理され続けた社員は判断力を失い同時に人を信頼しなくなります。かつての人類がビタミンCを体内合成できたように、人間は使わなくなった機能を封印します。組織論理に染まり長年自己を押し殺し続けると、人生の主体性を主張する権利があった記憶を失います。思考停止が習慣化して次世代に引き継がれた会社では、社会に提供すべき価値よりも組織の論理、すなわち共同体を守ることが優先されます。イノベーションが求められる時代に、無難な人しか役員にならない企業に未来はあるのでしょうか。人は同じ環境にいれば型にはまり突破力を失います。今の日本に欠けるのは思考する前に反射神経で行動する狂気であり、それが失われた30年を突き抜ける力だと思います。

野生的直感が参入機会をかぎつける

日本人は成功事例が好きです。成功事例は確かに参考になります。しかし結局のところビジネスは創意工夫が勝負の分かれ目で、八合目から富士山に登れるわけではありません。どこまで行っても自分起点のパッションがすべてです。仕事柄たくさんの成功したビジネスモデルを見聞きしますが、どれひとつとして模倣可能なものはありません。一昨日見た農業ベンチャーの事業も模倣が困難です。農業のイノベーションは6次産業化や生産過程の革新、独自の販売チャネルが議論されますが、それだけではいずれレッドオーシャンに戻ります。風が吹けば桶屋が儲かる的な因果連鎖が長いほど、そして経営資源投入の変数と技術のバリエーションが多く方程式が複雑なほど模倣が困難になります。この全体最適解は本人も気づかないうちに試行錯誤のプロセスで偶然発見されるのが常で、一瞬のひらめきから生まれるものではありません。情熱とともに重要なのが、まだ誰も気づかない未開市場の発見とその市場が成長とともに変貌する時間軸に自社のビジネスを適合させる戦術展開です。専門家は業界論理を与件として疑いませんが、他の産業で揉まれた人は野生的直感でそこに矛盾と参入機会があることをかぎつけます。日本の農業を人知れず変えてほしいです。

今なお残る20世紀の成功体験

昨日は農業ベンチャーのプラントを見に静岡に行きました。伝統的業界に残る昔ながらの商習慣の間隙を突く戦略はビジネススクールのケーススタディになりそうです。その重要さゆえに農業は保護され、皮肉にもそれがイノベーションを阻害し自らの首を絞めてきました。帰路、夕暮れの高速道路を走っていると学生時代を思い出します。車と青春が同義語だった自分の世代が社会に出てから昭和が終わるまではわずか数年です。そのあとの日本が長いトンネルを抜けられないのは、奇跡的な経済成長を見てきた昭和の指揮官に率いられた日本株式会社が、平成になっても戦い方を変えなかったことが原因だと思います。いわば野戦築城された信長鉄砲隊の馬防柵に突進する武田騎馬軍団です。閉塞感漂う企業の多くは、20世紀の成功体験と勝ちパターンで21世紀を生き延びようとしているように見えます。

楽しく、生き生き、第一人者

成功法則は信用しないのですが、一定のセオリーらしきものはあると思います。大阪なおみが日産自動車からGTRをもらったことは記憶に新しいですが、隣で写真に納まる日産の国内営業の最高責任者星野専務の生き様はセオリー通りです。経済学部で計量経済学を学び数字と戯れる仕事ができたら楽しいだろうなと日本債券信用銀行に入り、海外支店に勤務できれば生き生き働けると希望を出すも女性であることを理由に拒否され退職。マーケティングリサーチの第一人者になるべくフィリップ・コトラーに師事し、帰国後入社した社会調査研究所でやりたい仕事がなく書いた論文から日産の仕事を受け、日産本社でのプレゼンの後カルロス・ゴーンと2人で話したときに「Without you, we can’t do marketing」と口説かれその場で転職を承諾したと言います。楽しく、生き生きと働き、第一人者を目指すことが今の時代のキャリア形成だと思います。

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