先日行った紀伊半島が、関東の住人にとっては秘境に思えるのは、東京から遠く伊豆半島より巨大だからです。明け方に運転していると1時間ほど車とすれ違うことがなく、車道でイノシシや鹿の群れと遭遇します。暗闇の山中で車を停めて星を眺めることも、都会暮らしにとっては非日常の贅沢です。新幹線誘致の看板も見かけますが、願わくば秘境のままでいて欲しいと思います。地方創生の時代こそ、日本を均質化するのではなく、むしろ田舎が持つ希少性を際立った強みに磨き上げるべきでしょう。紀伊半島の先端に近い、それほどメジャーとは言えない神社仏閣にも欧米のインバウンド客を見かけますが、簡単に手に入らないものこそ、有難く価値につながるのかもしれません。里山を背景にする古民家や美しい庭を見ると、それだけで幸せな気持ちになりますが、自然と調和する暮らしこそ世界に誇れる気がします。
美しさが引き立つ
岐阜県のかかみがはら航空宇宙博物館で、旧帝国陸軍の三式戦闘機「飛燕」を見ました。川崎航空機が開発・製造を行った戦闘機で、3,150機が生産されましたが、現存するのはこの1機のみです。メッサーシュミットやスピットファイアに通ずる美しい機体を実現できたのは、ダイムラー・ベンツからのライセンスで製造した、日本で唯一の液冷エンジンを搭載したからです。このエンジンをめぐっては、海軍側の愛知時計電機と、陸軍側の川崎航空機がそれぞれ50万円を払い、日本として契約をすれば半分で済んだとドイツ側の失笑をかったエピソードでも知られます。V型のエンジンは通常シリンダーヘッドを上に向けますが、このエンジンがシリンダーヘッドを下に置くのは、おそらく機関砲を搭載するためでしょう。兵器こそ究極の機能美をもたらすもので、塗装や展示の光加減が重要であり、無塗装がデザインの美しさを引き立て迫力があります。
庭の時代の建築
今さらですがラコリーナ近江八幡を見ました。営業時間前でしたので、見たのは外観だけですが、それでも世界を見据える美しさと迫力に圧倒されます。イタリア語で「丘」を意味するLa Collinaは、イタリアの建築家、ミケーレ・デ・ルッキ氏の人と自然が融合した場所というインスピレーションに、自然建築デザインの藤森照信氏の設計が加わる幸せな結婚だと思います。かつて隈研吾氏はジェフリー・バワを「庭の時代の建築家」と呼びましたが、独特の世界観を持つ藤森建築は理想的な庭を得たことで完成したのでしょう。50年、100年と歳月を重ねながら、実り豊かな森の中に人の暮らしが融合することこそがあるべき姿であり、日本の里山の美しさ、棚田の美しさに回帰すべきという妄想が膨らみます。もはや建築家のアーティスティックなエゴなど不要なのかもしれません。
薪代と元が取れる
テントサウナの聖地とされる三重県の飛雪の滝キャンプ場に行きました。30mの落差がある滝は水量の少ない今の時期でも豪快に水を落とします。3タイプ用意されるテントのうち、最も川に近いモルジュはあっという間にロウリュが危険な温度に到達します。自分のペースで薪を燃やすことができ、10分から15分おきに薪を投入して前半は温度を上げドライサウナで一気に汗をかき、後半は温度を落としてロウリュでじっくりと汗を流します。2時間で2,500円の値段は良心的で、薪代だけで元が取れるかもしれません。水温は8℃と冷たく足が真っ赤になります。滝つぼから起こる風を受ける冷気浴で、川まで50歩ほど歩く間に体が冷えてしまいます。非凡なロケーションながら、三セク的な凡庸な運営のためか、昨日は他に1グループが利用しただけで、サウナブームの終焉も印象づけられました。
予定を決めない自由な旅
昨夜は三重県の鈴鹿に泊まりました。最初はN-VANで車中泊のつもりでしたが、じゃらんの口コミ4.3の宿が2,500円と格安だったので、興味もあり泊まることにしました。N-VANの車内が一人の宿泊にとって快適な空間だとしても、和室で荷物を広げられる解放感はありません。お風呂に入れて、浴衣やコーヒー、紅茶、日本茶まで用意され、もちろんWi-Fiも使えます。併設する料理屋が本業のようで、8室の客室は満稼働しています。今までは遠出をする時は最初に宿を見つける必要がありましたが、N-VANに寝具を積むようになってからは、魅力的な宿が見つかれば泊まるようになり、遠距離旅行の自由度が増えました。遅さに慣れるとエンジンの非力さも気にならなくなり、唯一の不満は今どきの車としては18.8km/Lと燃費が悪いことですが、AT車ならもっと良いはずです。予定を決めない自由な旅に慣れてしまうと、この車から離れられなくなります。
サウナを健康増進に
中山美穂氏がコンサートの予定されていた今月6日に急逝しました。病死の可能性が高く、入浴中に起きた不慮の事故とされます。発見場所となった浴室は、今の時期には急激な温度変化が生じ、血圧や脈拍が急に変動して脳卒中や心筋梗塞などを引き起こすおそれがあります。寒さは常に人類の生存を脅かす存在でしたが、一方で冬場に薄着で過ごすなど、寒さに慣れることで深部体温を上げやすい体質になるとの主張も聞かれます。寒冷刺激が体の温度センサーを活性化させ、体は寒さに適応するためにエネルギー消費を増やし、代謝が促進されると言います。冬こそサウナが本場の季節ですが、フィンランドを中心とした研究では、定期的なサウナ浴が心血管疾患や脳疾患のリスクを大幅に低減させるというエビデンスもあり、自分の体と対話をしながらサウナを健康増進につなげたいものです。
福島の川奈ホテル

いわき市の小名浜オーシャンホテル&ゴルフクラブに泊まりました。20代の後半以降ゴルフはしませんが、大浴場が充実するゴルフ場にはよく泊まります。福島の川奈ホテルと言えそうなロケーションは抜群で、打ち寄せる波が岩にあたり砕ける音が響く、大海原を望む露天風呂は夕日も日の出も夜中の星も美しく、日の出を見ていると、平和な一日を迎えられることに感謝の気持ちが起きます。サウナも含めて5:00から24:00まで営業しているのは良心的ですが、年配の男性客はサウナがぬるいぬるいと文句を言います。朝5時からサウナを動かす施設は珍しく、それでも室内は80℃近くあり、最上段ならじわじわと十分な汗をかけます。オフシーズンなら一休の朝食付き7,700円という、手の届く値段で贅沢ができる現代人は幸せですが、贅沢をすることの不幸は、執着に支配され感謝の気持ちを失うことかもしれません。
工務店の庭が北欧に
日立市の「85歳が創る茨城極熱サウナ~3un~」に行きました。施設名は、大工一筋60年という経営者の祖父が、自宅の庭にサウナ小屋を作ったことに由来します。凄いのはロケーションで、住宅地にある工務店の資材置き場にサウナ小屋と水風呂、外気浴スペース、更衣室兼用のシンギングボウルを用いた倍音によるサウンドセラピーを行う部屋があります。外気浴スペースはアパートと隣接し、犬の鳴き声や生活音がするのはご愛敬ですが、合計4時間にも及ぼうというプログラム中は意識が薄れていきます。とくに北欧から取り寄せたオークのウィスクによるウィスキングは、ここが茨城県の工務店の中庭であることを忘れます。ウィスキング後半はロウリュで一気に汗を流しますが、立って施術をするセラピストは体力勝負です。森林のような香りと蒸気に包まれ、五感を研ぎ澄まされる体験は、サウナのメインストリームになる気がします。
運転の身体化
N-VANに、ドアのロック・アンロックに連動してドアミラーが自動的に格納・復帰するオートリトラクタブルミラーを付けました。乗降時に、ミラー操作の手間が省ける便利さが回路の交換だけで済むなら、全車に標準装備してもらいたいところですが、配送などに使われる商用車では、都度ミラーが格納されることが嫌われるのかもしれません。ディーラーでの作業には時間がかかるようで、代車に借りた黄色いN-VANのAT車は想像以上に好印象でした。実用的な低速域では6速MTより加速力を感じ、乗り味も重厚です。これで燃費が良いとなれば、変わり者以外はMT車に乗る理由が見つかりませんが、それでも帰路自分のMT車に乗り替えるとライトウェイトスポーツカーのような吹き上がりを楽しめます。マニュアルトランスミッションによる運転の身体化なしに、Fun to Driveはありえないという信念はしばらく変わりそうもありません。
N-VANはどこでもドア
N-VANに乗るようになって夜中に移動する機会が増えました。以前は渋滞を避けるために早朝に出かけましたが、今は眠気さえなければ夜通し走り、眠くなればSA/PA、道の駅などで仮眠を取ります。助手席から続くフルフラットのスペースに、600mm幅のマットレスと普段から使う寝具を積むので、運転を中止して数秒で眠りにつくことができます。夜中に運転するメリットは、交通量が少なく、道がスムーズに流れるために燃費も移動時間も少ないことです。夜中は仕事など運転に慣れているドライバーが多いため、道には秩序が回復しストレスがないこともメリットです。暗闇のなか自分だけの時間を取り戻し、昔聞いた音楽を流していると学生時代のような高揚感を覚え、夜が明けていく時間帯の光の美しさも印象的です。時間に拘束されず、真夜中に移動できるN-VANは、どこでもドアのようにささやかな夢をかなえてくれます。