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命を削る贅沢料理

悪魔的な食べ物をひとつあげるならホットサンドイッチでしょう。簡単に作れて、血糖値は急上昇し、偏桃体がハイジャックされ、避けたいけど同時に無性に食べたくなる悪魔の食べ物です。原価数十円のホットサンドが贅沢品なのは、美味しそうな料理の常で命を削って食べるものだからでしょう。医学誌ランセットは、全世界の死因の2割は不健康な食事で、それは栄養価の高い食べ物が手に入らないからではなく、好きな時に好きなものを好きなだけ食べられる、恵まれた飽食社会が文明病を引き起こす要因だと指摘します。誘惑に無抵抗に従い欲望の赴くままに消費をすると、不適切な食事を過剰に摂り自らを死に追いやります。産業の関心は消費者の財布であって、健康ではありませんから、多くの人は食べ過ぎなのに栄養不足というパラドックスに陥ります。身を守るには、何かを食べたいと言う感情が、空腹とは無関係に操られていることに気づくことでしょう。

節約にもなるロマン

新月の断食というと怪しげな響きですが、人体が月の満ち引きの影響を受けていることは間違いないと思います。普段より体重の落ち幅が大きく、一晩で3kgほど減量して小学校以来の体重である54kg台に戻りました。今の関心は、食を断つことで脂肪酸のエネルギー産生を洗練させ、遠くの山まで行けるスタミナと筋肉をつけることです。TJARに続いて海の向こうでは世界一有名な100マイルレースUTMBが終わりましたが、ウルトラディスタンスを旅できる体づくりにはロマンを感じます。同時に健康まで手に入り、節約になり、自己肯定感を高めます。一度として同じことのない山の景色に巡り合うには、唯一の交通機関である体を鍛えるしかなく、アクセス困難な雲ノ平に普通の終末に行けるようになります。景色を楽しみながらリズム運動をするセロトニン系の幸せと、肉体を追い込むドーパミン系の静と動の喜びはレジャーの本質のような気がします。

老後2,000万円などどうでもよい?

昨日は新月で48時間断食をしました。断食はお金のかからない解毒法であり、新月にはその効果が高まるとされます。8月は山に行く機会が多く、何を食べても美味しく断食には抵抗もあります。断食に適するのは忙しい平日ですが、昨日は家人がおらず食べ物の匂いに惑わされることもありません。今最も食べたいものは雲ノ平山荘の夕食に出された生姜の佃煮で、何杯でもご飯を食べられそうです。断食以上に不人気な週末はありませんが、そのモチベーションは断食明けの食事の美味しさです。食べる喜びを最大化する方法は、食べないことを置いて他にはありません。他方、山で遭難した人が何日も生存できるのは、人体がほとんど食べずに生きられるエコシステムだからです。このシステムは食べないことによりさらに効率的に脂肪酸をエネルギーに変え、食べる心配と病気の心配から解放され、老後2,000万円問題などどうでもよくなります。

何を食べても山なら絶品

普段は一日1.5食ですが、山では一食です。行動中に食事や補給をすると、血糖値スパイクにより2、3時間後に今度は体が低血糖に陥り動けなくなるリスクがあり、宿泊地に着くまでは水以外口にしません。これはこれで問題なのですが、メリットは食糧を携行する必要がないことです。多い日の運動量は4、5,000kcalに達するのに対して、血液中や筋肉、肝臓に貯蔵されるグルコース約800kcalのうち、600kcalは就寝中の基礎代謝で消費され、日中の運動プラスαのエネルギーは脂肪組織に蓄えられた中性脂肪が燃やされます。この時オートファジーが引き起こされ、身体を細胞レベルから解毒し、同時にミトコンドリアのエネルギー産生を強化しますので、「食べずに運動」こそ最良の健康法だと思います。何より運動後の食事の美味しさと言ったら比べるものがありません。たとえそれが携行食の即席ラーメンだとしてもです。

伝統の自然調理法

北アルプスに行っている数日の間、ぬか床を冷蔵庫に保管して出かけたところ、帰ってみると普段と匂いが違います。ぬか床をペットと言う人もいますが、元気がなくなっているのが分かります。ぬか床をボールに出して腐敗菌が嫌う塩を入れてよくかき混ぜ、洗った容器に移し替えると翌日には異臭は消え、元気になるところはまさにペットです。ぬか漬けが食卓に上るようになってから調理に対する考え方が変わりました。野菜を入れておくだけであとはぬか床が勝手に調理をしてくれて、野菜の栄養価が高まります。同様に天日干しも便利な調理法で、時々安く売られるシイタケなどを買って天日干しすれば、ビタミンDの栄養価が上がり保存もできて一石二鳥です。かつてはどの家庭でもぬか床や野菜などを干す網がありましたが、保存技術の進歩やコンビニの普及など、便利な生活は伝統的な恩恵を記憶から消していくのでしょう。

帰ってきたのにもう行きたい

最近の山の天気予報はあてにならず、先日の黒部五郎岳の3時間毎の天気予報はどの時間帯も登山に適するAでしたが、翌日は朝から雨が降り続き稜線は強風でした。山の天気は変わりやすいとは言え、翌日の予報をここまで極端に外すと、価値がない以前に危険です。天気予報を信じて黒部五郎小舎でテント泊の予定でしたが、風雨のなかの設営と撤収が面倒で下山することにしました。雲ノ平から薬師沢を通る最短ルートは往路に使ったので、三俣蓮華岳、黒部五郎岳、北ノ俣岳の3つのピークを越える25kmです。トレランザックなら問題のない距離ですが、キャンプ道具を背負うと消費エネルギーは5,000kcalを超え体力が消耗し、風雨とどこまでも続く飛越新道の泥沼もあって、歩いているときはもう来たくないと思いました。しかし、体を酷使した達成感がそうさせるのか、翌日にはもう秋の北アルプスに引きつけられています。

自然と建築物の幸せな関係

北アルプスでは雲ノ平山荘とテントに宿泊しましたが一長一短です。結論から言えば、山小屋が自然と建築物の幸せな関係を作れるどうか、その場所でしか味わえない時間の過ごし方の提案であり、経営者のセンスとこだわり、演出次第だと思います。テント泊はプライバシーが確保され、自然をより身近に体験でき、どのように過ごすかは自分で演出できますが、強風・豪雨のなかでの設営・撤収は避けたい事態です。山小屋は荷物を減らせるために行動範囲が広がり、栄養のある食事が摂れるのに対して、テント旅は自然をダイレクトに感じる身体感覚を伴い、水と排泄以外は自己完結するある種の達成感を得られます。山小屋は1泊2食13,000円の相場形成がされつつあり、30%程度のキャンセル料を取るところもありますが、テント泊なら予定を決めない旅ができます。雲ノ平山荘のレベルに達していれば山小屋、それ以外はテントという判断になりそうです。

黒部源流の帝国ホテル

帝国ホテル一軒しか宿がなければ上高地はもっと素晴らしい場所だった、と言えば関係者に怒られますが、そんなことを思ったのは昨日、雲ノ平山荘に泊まったからです。山好きの間で秘境として知られる景色の美しさは掛け値なしですが、その評判を伝説の域に高めたのはこの山小屋の存在が一因でしよう。「黒部の山賊」に書かれた戦後の混乱期に山小屋を建てたフロンティアの物語に思いを馳せながら、なぜか下界より安いハンドドリップのコーヒーを飲み、テラスで眺める景色はプライスレスで、3倍以上の宿泊料金を取る上高地帝国ホテルよりもゆったりと時間が流れます。LPレコードが響く食堂でのおかわり自由の石狩鍋も絶品でした。これまでは、山小屋よりプライベートが確保されるテント派でしたが、それは日本にセンスの良い山小屋がないからだと思います。

雲ノ平は近かった?

雲ノ平は白馬連峰、剱岳や立山、穂高や槍ヶ岳の3つの巨大な山陵の接合点にあり、それ故どこからも遠く最短の折立登山口から13時間かかり最後の秘境と呼ばれてきました。昨日登った飛越新道は折立ルートより3時間ほどコースタイムが長いものの、首都圏からの車のアクセスは50kmほど短く実質最短ルートと言えますが、稜線までの4時間は誰にも会いませんでした。このルートが不人気な理由はおそらく泥沼のトレイルが続くことと思われますが、それさえ気にならなければ、小屋泊まりの少ない荷物なら首都圏から一泊で雲ノ平に行くことは十分可能です。山の楽しさは身体を鍛え荷物を減らせば行動範囲が広がり、憧れの地が週末行ける場所になることです。今回の反省は前回あまりにお腹が空いた反動で食料を持ってき過ぎたことです。山では限りある食べ物を有り難く食べるに限ります。

想像できないから旅に出る

今年2度目の北アルプスに来ました。前回のTJARの応援は妻とですが今回は1人です。単独行はリスクもある反面、自分のペースを保ち好きなように動き止まれるので旅の気分が盛り上がります。短い間隔で再度訪れた理由は、前回通過した雲ノ平山荘にどうしても泊まりたくなったからです。こんな事は6年ほど前に、なぜか引きつけられるゲストハウスがあってペナンを訪れて以来です。宿を目的とした旅行はホテルツーリズムと呼ばれますが、どんな豪華な施設であれ既視感のあるところに行きたいとは思いません。そこに行かなくても想像の範囲だからです。ペナンのゲストハウスも雲ノ平山荘もその時、その場所にたたずんだ自分の感情変化を知りたいと思えます。何を見て、何を感じるのかが、過去の自分の経験に照らしても想像できないから、人は旅に出るのだと思います。

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