たまに日記を読み返します。4つの企業で30年サラリーマンをした後、当てもなく会社を辞めたのは2016年の今頃で、学びの旅と嘯いて半月ほどペナンで過ごし、帰国して何を思ったか旅館を買い、そこから多くの出会いと学びがあり、今はその旅館も存在しません。大学教員にはサバティカル制度があり、ヨーロッパを中心にキャリアブレイクが普及しますが、この6年間は人生の空白期間と言えます。使途制限のない長期休暇は、これまで築いたキャリアから自由になり、本当にやりたいことを再構築する機会になります。世間は生涯賃金を気にしますが、必要なのは生涯収入であり、第二の人生とは組織に頼らずそれを実現するスキルを確立する時期だと思います。無計画なサバティカルと言うモラトリアムを放置してくれる家族に感謝しつつ、働きたいから働く主体的な人生を送りたいものです。
消去法が愛しい
フィアットが定期点検から帰ってきました。8年で16.7万kmは自分史上最長走行距離で、この距離を走ってメンテナンスフリーだった車は、30年ほど前に乗っていた初代の同じフィアットパンダとこの車だけです。4WD、マニュアル、ディーゼル、左ハンドルという消去法で決めた車は、ごくたまに300円の洗車機にかける程度で、オイル交換なしに2万kmを走っても不機嫌になることはありません。愛らしくはあるけどお世辞にも良いデザインとは言えず、取り立てて美点があるわけでもないのに、全てにおいて過不足なく悩みは次に乗りたい車がないことです。店によると、同じ車に26万km乗った別の客の悩みも同じだったそうです。最小クラスの大衆車はホテルの玄関に乗り付けても誇らしい気持ちにはなりませんが、腰まで埋まるような福島の雪道をけなげに走るフィアットを愛おしく感じます。
条件付きの幸せ
健康診断を受けた人のうち経過観察、再検査、治療が必要な有所見者数は上昇傾向が続き、6割に達すると報じられます。過半数の人に不健康が疑われる事態の解釈は二つあって、繊細で外部の影響を受けやすい身体ゆえに壊れて当然という視点と、タフな身体が壊れる環境は異常とする考え方だと思います。人体には身体を正常に保つホメオスタシスが備わり、通常であれば自然に健康が保たれるはずです。日本でもアメリカでも国民所得が増えても生活満足度が向上しない理由は、生活習慣病の増加など、年々われわれが不健康になっているからだとされます。稼いだお金は生活の質を高めるために使われるはずですが、その行先は食料品や化粧品、医薬品といった、不健康なライフスタイル抜きには成立しない裏の顔を持った産業です。条件付きの幸せのために金を払い、その結果幸せになれないのかもしれません。
幸せを感じる力
昨夜は英国にいる娘がLINEのビデオ通話をしてきて、結局2、3時間話しました。スピーカーを使い、その間双方で食事を作ったり風呂に入ったりしますが、生活の様子がリアルに伝わります。英国生活が3年目に入り、日本に暮らす素晴らしさが身にしみるようです。日本よりだいぶ寒い気候のなか、アパートのヒーターが壊れ、お湯も暖房も使えず、国中が喪に服しているにせよ、経済活動が止まり業者には連絡がつかないそうです。日本なら家の設備は簡単に壊れませんし、連絡がつかなくなることもなく、最悪自分で暖房機を買うこともできますが、いずれの手段も断たれていると言います。観光客として訪れる英国は憧れの対象でも、住めばかつての大英帝国の都とは程遠い印象です。海外旅行が復活を始めると、外の世界に羨望の眼差しを向けますが、幸せを感じる力が衰えた日本人は、日々の暮らしの尊さを忘れているのかもしれません。
宗旨替えをした日本人
温泉に恵まれあれほど温泉好きだった日本人が、宗旨替えをして今や北欧式サウナに熱狂しています。玉川温泉など体の変化を体感できる一部の例外を別とすれば、温泉の効能が気のせい程度なのに対して、サウナは手順に従えば誰でも整うことができます。事業者にとっては開発コストとメンテナンスコストを抑制できるのが魅力です。繁華街にあり男性専用だった時代の名残はもはや見られません。今やテントサウナはあらゆる場所に持ち込まれ、自動車さえも移動式サウナにしてしまう時代で、今までブレイクしなかったことが不思議なぐらいです。写真は野尻湖のLAMPで見かけた軽トラックを改造したサウナで、煙突をはずして八ヶ岳から自走してきたと言い、屋根には本物の芝生を生やした整いスペースが用意されます。あって当然になりつつあるサウナの破壊力は、宿泊施設に地殻変動をもたらすのでしょう。
毒を食らわば皿まで
先週末は野尻湖、白馬に行きましたが、車で遠出をするときは農産物直売所や地元のスーパーを覗きます。戸隠で見かけたタモギタケ(楡木茸)はヒラタケの一種で傘の美しい黄色が目を引きます。あまり香りはありませんが、だしの元となるうまみ成分をバランスよく含み、血糖低下、脂肪減少、コレステロール低下、血圧上昇抑制、抗腫瘍作用、認知症やアルツハイマー病の予防効果があり、薬品の原料としても研究されているようです。一般にキノコは低カロリーでβ-グルカンなどの食物繊維、ビタミンD、ビタミンB群などの栄養素が豊富で健康増進に役立ち、統合医療の第一人者であるアンドリュー・ワイルもキノコを豊富に入手できる日本がうらやましいと言っていました。健康効果が注目される和食や発酵食などの素晴らしい食文化を持つ日本が、今や「毒を食らわば皿まで」のグルメ大国となったことには複雑な気がします。
同じなのに別モノ
フィアットの定期点検のために同じパンダを借りました。左ハンドルと右、ディーゼルとガソリン、4WDとFF、並行輸入と正規輸入と違い似て非なる車ですが、最大の違いはマニュアルとオートマのトランスミッションです。あらゆる場面で動きが鈍重なことは、マニュアル原理主義者の最大の批判の的ですが、国道246号線を走りながらFMラジオから流れる軽快な曲を聴いていると、アメリカ西海岸のハイウェイでものんびり流しているようなおおらかな気分になります。先ほどまで悪態をついていた悲劇的な遅さが、体中から力が抜けて行くような心地よい緩さに代わり、同じ車なのにこの魅力は全く別モノだと思います。ヨーロッパの小型車と言えば小気味よく走らせるのが相場だと信じていたのですが、全身から力が抜け全く飛ばす気にならず、こんな世界もあったのだと新鮮な発見をしました。人は狭いメンタルモデルのなかで生きる生き物なのでしょう。
とりあえずサウナ
土曜日にNagano Forest Villageを見た後、信濃町ノマドワークセンターに寄りました。信濃町が、コロナ禍以前から手掛けるキャンプ場併設のコワーキング施設です。しかし、ポストコロナのワークスタイル変化の追い風に乗れていないようで、定石通り作ったけど熱量が不足している印象です。予想以上でも以下でもなく、あえて新潟県境まで行く理由を感じません。猫も杓子もワーケーションという風潮は、空前のサウナブームとお手軽なテントサウナの出現によって、「とりあえずサウナ」というコモディティを生みました。いずれ多くの事業者はレッドオーシャンに沈むのでしょうが、その対案は野尻湖のサウナ施設LAMPにあると思います。思い込みと思いつきだけで作ったサウナ愛が熱狂を生み出します。「どこでもサウナ」の時代には、自分発の「ここだけサウナ」を生み出すクリエイティビティと情熱抜きには生き残れないのでしょう。
思い込みか抜け目なさか
昨日は長野市所有のキャンプ場を今年4月にリニューアルオープンしたnagano forest villageに行きました。キャンプフィールドの付いた道の駅的施設ですが、設計、施工、運営を一括発注する力の入った施設は洗練されます。しかし、長野市中心部から車で20分の立地と6.5億円の事業費の割に寂しい入込です。おそらく、「普通に良い」というのが世間の評価なのでしょう。一方、ついでに行った野尻湖のサウナ施設LAMPと白馬のスノーピークの集客力には圧倒されました。前者は元ペンションか何かをそのシャビーな造形をものともせず、前のめりのサウナ愛と思い込みによってサウナーの聖地に変えてしまいました。スノーピークの住箱にしても1泊何万も取れるような環境ではないのに、一流の抜け目なさと圧倒的に高い顧客ロイヤリティーにより、今でもスノーピーカーが押しかけます。これからの時代に必要なのは、思い込みか抜け目なさかもしれません。
永遠の今
長野県にいるメリットは農産物の産地に近いことで、近所のスーパーに行くとリンゴ(つがる)5個が230円で売られていました。多少小ぶりながら傷んだ様子もなく、一つ50円もしないとは思えない甘さが口中に広がります。同時に申し訳ないという、作った人への複雑な感謝の気持ちが沸き上がります。幸福を量る指標は感謝の回数だと思います。人は満たされたときに感謝をし、一方で次の欲望や執着で頭が一杯のときその気持ちを忘れます。暖かい湯舟に身を沈めたとき、清潔な布団で眠りにつくとき、蛇口から飲み水が出るとき、青空を見上げたとき、感謝の機会は無限にあります。一方、消費者が満たされてしまえば産業は立ち行かなくなりますので、いつも欠乏を煽ります。世間には幸福になる方法を語る嘘が満ち溢れますが、幸福のためにすべきことなど何もなく、永遠の今を感じ、感謝し味わいつくすだけだと思います。