縦走に行くとミニマリストになります。生活道具一式をかついで山に入ることは、移り住むことを前提に生活するアドレスホッパーと同じです。山での我が家となるテントの有無は体への負担と行動距離に影響します。軽量化のために荷物を厳選していくと、普段の生活がいかに不用品にまみれているかが分かります。昭和の時代はモノを増やし、抱え込むことは豊かさの象徴でしたが、今は減らすことが人気です。最小限で暮らすと自分を縛っていたものから自由になり余裕が生まれます。本当に必要なものが見えると、お金や時間の支配からも自由になり、本当にやりたいこと、好きなことに集中できるようになります。現代人は消費によって自分のアイデンティティを定義しますが、皮肉なことに消費を手放すことで初めて素の自分に戻り、好きなことを人生の中心に置くことができるような気がします。
自宅でととのう
夏は2度北アルプスに登りました。海外に行かなくても、日本に居ながら素晴らしい景色を楽しめます。しかし北アルプスに行くにもそれなり時間も労力もかかり、首都圏に近い八ヶ岳でも十分に満たされます。時間やコストとベネフィットを比べ始めると、最後は家で好きな時に風呂に入り読書をする、といった休日で満足します。長続きする幸せとは、何かをすることによって得られる条件付きのDoingではなく、ただそこにいるだけで感じるBeingへとシフトしているからだと思います。あるがままの日常に偉大さを見出すことが長続きする幸せであるなら、自宅以上にふさわしい場所はありません。最近傾斜を始めているサウナにしても、41℃程度のお湯に15分も入り、これからの季節冷たくなるシャワーを浴びると同様にととのいます。サウナの正当性を担保する理由さえ自宅で簡単に得られることは、サウナ事業者が知られたくない不都合な真実でしょう。
人生最後の日まで、成長をやめない
15歳の時史上最年少で『ヴォーグ』の表紙を飾ったファッション業界最高齢のスーパーモデル、カルメン・デロリフィテェ(Carmen Dell’Orefice)が91歳で米『New You』誌最新号でヌードを披露したことが話題になります。今時90歳現役は驚くべきことではありませんが、1931 年生まれの女性の年齢を超越した神々しいまでの肢体は別格です。「人生最後の日まで、成長をやめない」と語る彼女の人生が順風満帆だったわけではありません。40年ほど前には株式投資で資産のほとんどを失ったと言います。美しくあり続ける秘密は、「自分自身を愛して慈しむセルフラブにある」という生きる伝説の言葉は重く響きます。「ファッションの奴隷にならないよう意識し、無理に昔の自分のルックスに戻すことはしない」という言葉の通り、40代以降は白髪も染めていません。「人生最後の日まで、成長をやめない」とは、変化し続けることを自然体で受け入れ、楽しむことなのでしょう。
都心にも飛び火したサウナ戦争
リゾートが主戦場と目されていたサウナ戦争は都心にも飛び火しているようです。浅草駅徒歩二分の立地ながら、あろうことか薪ストーブを導入してしまったサウナランド浅草がこの夏開業しました。昨今の第三次サウナブームの特徴は乾式から湿式へのシフトであり、客室にはロウリュができるフィンランド式ストーブや外気浴スペースが備わります。水風呂には15℃に設定された冷却水循環装置設置がつき、都心の施設としては最高スペックでありながら宿泊料金は比較的良心的です。もはやサウナは一部の熱狂的マニアの話題ではなく、宿泊業界を揺るがす一大トレンドになりそうです。一部のドーミーインがセルフロウリュを導入するなど、その影響は広がります。フィンランド式サウナのトレンドは、もはや本家を超え、後戻りできない進化を遂げているように見えます。
レジリエンスより善行
誰しもうまく行かないときや落ち込むときがあります。困難な問題や危機的な状況から立ち直る、レジリエンスなども注目されました。他方で自分を強くするメンタルタフネス系の考え方は、結果が出ないときにはさらに落ち込みます。より簡単なのは縁起を担ぐ方法で、善行を重ねることだと思います。気分が優れないときは運気も落ちているので、普段以上に良い行いをするだけです。ゴミを拾うとか、道を譲るとか、人に贈り物をするとか、店の人に笑顔でお礼を言うとかを繰り返していると、自然と運が回ってきます。「情けは人のためならず」で、効果はかなり高い確率で意外に早く訪れます。山に行くときはなるべくゴミを拾いますが、夏に北アルプスに行ったときは山では貴重な、通常あるはずのない生鮮野菜を拾いました。このジンクスは量子力学的に説明が可能かもしれませんが、信ずるものは救われるのでしょう。
消費者に戻れない
先日行った結城市のサウナは来月から25%の値上げをすると言います。空前のサウナブームで、世間は貸切サウナに喜んで数万を払い、一泊10万円程する古民家の宿が高稼働のために事業者は強気です。心を震わせる感動的な体験の価値は高まり、人の本能に訴える商品は尽きない欲望を引き出します。しかし、商品が高額になるほど興が醒め、価格に対して冷静な評価を取り戻します。大枚をはたいてアウェイの環境でサウナに入るぐらいなら、自宅にサウナがあればもっと純粋に楽しいはずだと考えるようになり、空き家が増える今ならそれは現実的な選択肢です。われわれは消費者であると同時に収入を得る生産者ですから、純粋な消費者になり切ることはできません。無邪気にサウナを楽しんでいるようで、もう一人の自分はお金を払う自分を俯瞰します。何らかの必然なしに消費を楽しめないのは、もはや純粋な消費者に戻れないからかもしれません。
イノベーションと参入障壁
安価なテントサウナが家庭にも普及し、サウナはあって当たり前のコモディティになりつつあります。三重県と京都府の県境に近い奈良県山添村のume,はサウナが人気で、高額な料金にも関わらず毎月1日に半年後の予約を始めた直後に埋まり、「システムエラーではございません」と宿側が弁明する事態になっています。サウナがあることで知らない街を訪れる旅も人気です。評価の高いサウナの共通点は、①強力な薪ストーブとセルフロウリュ、②風情あるサウナ室、③水深がありかけ流しで野性味ある水風呂、④絶景で気持ちの良い外気浴スペース、の4点のようで、テレビがあるようなおじさんサウナとは別世界です。自然のなかに持ち出せば唯一無二の価値を創り出せる、テントサウナのイノベーションと参入障壁の低さを味方につけた者が、次の勝者のような気がします。
無価値に価値を
結城市でサウナを見た帰りに前橋市の白井屋ホテルを見ました。白井屋は森鴎外や乃木希典に愛された300年の歴史を誇る旅館でしたが、1975年にホテルに建て直され2008年に廃業し放置されていました。2014年にJINSを創業した田中均氏が個人で買い取り再生を手がけたアートホテルです。寂れゆく地方都市で請け負うホテルオペレーターもない逆境を跳ね返し、名だたる現代アーティストがほぼボランティアで参画するプロジェクトは、6年半の時間と採算度外視の投資により、視察の絶えない名所に生まれ変わりました。前橋市民に親しまれた記憶を残すためだけに、歴史的価値も建築的価値もない建物を再生したケースは異例です。価値がないものに命を吹き込み価値あるものに転換することこそ、現代の建築家やアーティストにとっては醍醐味なのでしょう。大胆な吹き抜けと既存建築を減床したわずか25室のホテルは、地域活性化の起爆剤として街を変えつつあるように見えます。
サウナ旅の破壊力
昨日は結城市で旧呉服店の築90年超の袖蔵を活用したKURASAUNAに行きました。急な階段を登った2階には強力な薪ストーブが置かれ、薄明りのなかで炎が揺れます。向かいの老舗味噌屋の仕込樽を使った水風呂には鬼怒川の伏流水が流れ込みます。古民家の中庭で気持ちの良い風に吹かれていると確実に整います。予約枠のうち男性3人に対して女性は4人と多数派で、一人で来ていることが印象的です。20代と思しき女性は北海道から九州までサウナ目的の旅をしていると言いサウナ旅の破壊力を実感しました。話題は全国の記憶に残るサウナで、従来にない社交の場になる可能性を感じます。熱を閉じ込めることには不向きな蔵を使ったサウナは全国に3か所と言われますが、各地の旧城下町には取り残された古民家や蔵が残り、サウナへの改装コストはおそらく5百万円程度と参入障壁は低く、遠からずレッドオーシャンの時代が訪れるのかもしれません。
消えゆくワーカホリック文化
長時間労働を避け必要最低限の仕事だけして、仕事への熱意も会社への帰属意識も低い「静かな退職」(Quiet Quitting)が米国で注目されます。リモートワークによって無駄な会議やパソコン仕事で時間をつぶせなくなった反面、米国の生産性は、調査を始めた1948年以来、最大の下降を辿ったと言います。ギャラップの調査では「やる気を持って仕事に取り組んでいる」と答えたのは33%で、従業員の60%が「仕事から心が離れている」、19%が「惨めだ」と回答しました。仕事とプライベートの線引きを曖昧にしたリモートワークをきっかけに、自分のアイデンティティからキャリアを切り離したいと考える人が増えたのかもしれません。企業戦士の必須アイテムとして一世を風靡した栄養ドリンク、リゲインのテレビコマーシャル「24時間、戦えますか」は今なら放送コードに触れそうですが、猛烈に働くワーカホリック文化が消えて行くのも寂しい気がします。