昨日は編笠山と西岳に行きました。2,000mを超えると秋らしい空気が心地よく、晴れた週末に山に行かないなどありえない選択です。日本人にとっての山は神に近づくための聖域であり、人に会わない早朝の八ヶ岳では神妙な気持ちになります。昨日とは違い、足の関節がスムーズに動き下りのスピードが上がります。このままスピードが上がって行くと、リラックスしながら集中力が極限まで高まり、パフォーマンスが限界を超えていくゾーンに入ります。自分の身体と思えないほど早く体が動き、あっという間に下山してしまうことがまれにあります。ゾーン体験のメカニズムは最新の脳科学でも説明が困難ですが、ノルアドレナリン、セロトニン、ドーパミンの3つの脳内物質がバランスよく存在した状態を言い、体調と気分が良く、体力が充実する早朝一人の時の下山道で起こります。ゾーンを求めて山に行くのかもしれません。
お知らせ
最もふさわしくない理想郷
昨日はラブラドールと西岳に登りました。8月で山に行ったのは玉川温泉の湯治のついでに登った秋田焼山ぐらいで、多少ペースを上げると体がバテ、下山道を走ると固まった関節がスムーズに動かず悲鳴をあげます。普段から努めて歩くようにしていますが、その程度の運動など足慣らしにはなりません。都会の暮らしは関節の可動域が狭くなり、ちょっとしたことで怪我をします。人類は自然の地形で毎日体を動かすように進化を遂げており、体を動かさない安楽な環境が人を弱らせるのは、使わない機能を肉体が封印するからです。下山後は近所でほぼ自給自足生活をする友人宅に伺い、ミニトマトを収穫させてもらいました。畑で野性味あふれる野菜や果物を収穫しながら食べる豊かさに勝るものはなく、安楽に贅沢を楽しむ都市生活という人類が想い描いてきた理想郷が、進化した人体に最もふさわしくない場所とは何とも皮肉なものです。
きれいごとに流される風潮
内憂外患の中国は混乱を極め、世界最大級のウラン鉱山から核汚染物質が中国北部に広がったという真偽不明の情報まで拡散されます。政治、外交、経済と良いところがなく、自然災害にまで祟られ、正当性を失った政権による台湾進攻という暴発は最も避けるべきシナリオです。不良債権の規模からして、日本の失われた30年より深刻な景気低迷期に入るはずで、狂い始めた歯車が第二の文化大革命の引き金になるかもしれません。異例の3期目に入った独裁者が考えるのは自らの地位の保全だけで、時代錯誤の個人崇拝が苦境から立ち直る道を遠ざけます。汚職と巨万の富が結びつく共産主義という偽善は、われわれとは無縁に見えますが、社会に根深く浸透したポリティカル・コレクトネスが、第二の共産主義を生まないとも限りません。深く考えることなく、安易にきれいごとに流される風潮が国を亡ぼすのでしょう。
究極の消去法
東大生の就職先で3年連続の首位だったのは楽天グループです。世間はモバイル事業の赤字と社債償還に苦しむ楽天の行く末に懐疑的ですが、若者の視点はいつの時代も新鮮です。膨大なデータを扱うインターネットサービスは、世界を相手に今すぐ闘いたい野心的な若者にとって魅力的で、GAFAMより規模が小さいことも評価の理由と言います。世界に挑む気概を失った大半の大企業など、緩やかな自滅を待つ退屈な場所に見えるのかもしれません。入社即戦力で面白そうな仕事ができる楽天は、究極の消去法で選ばれる企業と言えそうです。自分の能力に自信のある人は概して楽天的で、同じ会社に留まる気などないでしょうから、モバイル事業問題など取るに足らない問題とも言えます。戦後の経済界で成功を収めたソニーにせよホンダにせよ、厳しい現実よりも空想を優先した楽天主義者の会社だった気がします。
際限なき消費
夏休みが終わり、昨日は日本工学院に出講しました。渋滞が嫌いなので、まだ校舎の開かない時間に到着しますが、Wi-Fiのつながる屋外のテラス席で、静まり返った校内の緑を眺めながら準備をする時間になぜか満たされます。別にスターバックスに行かずとも、ましてや高級ホテルのラウンジでなくとも、持参したお茶を屋外で飲むだけで小さな幸せを感じ、モアアンドモアの際限なき消費を求めることが無意味に思えます。ありふれた日常に満たされるなら、自然と欲望は薄らぎ、次々と新しい消費に駆り立てられる必要もなくなります。世間の常識とは真逆に、消費を減らすことで雑音が消え感受性が高まると感じるのは、微細な差に執着させようとする産業の意図に欺瞞を感じるからです。人々はお金を払うことで自らの幸せに納得しますが、世の中の大半の消費には中毒性があり、体も心も不健康にすると感じる直観は正しいような気がします。
あまりに簡単
昨今、シリコンバレーの超富裕層の資金とペルシャ湾のオイルマネーは、「医学的若返り」研究につぎ込まれているようです。有力スタートアップは数千億円単位の資金を調達して、100万ドル以上の給与を提示し科学者を集めているとされます。細胞をより若く、回復力の高い状態に保てるなら、多くの疾病を一挙に解決でき、医学を根本から変えることが期待されます。誰もが自分が生きている間に若返りの方法が見つかることを期待しますが、iPS細胞の腫瘍化など、新しい発明にはリスクが付きまといます。一方で、お金もかからず、副作用もなく、ほぼ確実に若返る方法をわれわれは既に手にしていると思います。常識よりはるかに少なく食べ、常識よりはるかに多く運動するだけで長寿遺伝子は活性化します。このアイデアが支持されない理由は、人はお金がかからず、あまりに簡単な方法を有難がらず過小評価するからだと思います。
常識を受け入れた人から弱っていく
三浦雄一郎氏が先月末、90歳で富士山の頂に立ったと言います。87歳のとき8カ月の入院をして、その際のリハビリの目標が富士山だったそうです。往年の冒険家にも山岳用車いすが必要でしたが、1988年に富士山最高齢登頂を達成した五十嵐貞一氏が、101歳10カ月だったことには驚かされます。富士山初登頂は73歳のときで、その後妻に先立たれ供養を兼ねて、15年のブランクの後、89歳のときに再度富士山に挑み、以来13年連続で富士登頂を成し遂げたとされます。元気な長寿者に共通するのは、年齢を気にしないことだと思います。自分は歳だと思えば、73歳で初めての富士山に挑む気など起きないはずです。全ての書籍には加齢とともに体は弱ると書いてありますし、多くの著者が若返りなど不可能だと言いますが、この常識を受け入れた人から弱っていくのでしょう。
運動しても痩せないのはなぜか
トレラン界最大のイベントUTMBが終わりました。マラソンの持久力はスポーツ科学により解明されていますが、100マイルを超える山岳レースをなぜ人が走れるのか、については究明されていません。エクストリームスポーツでアスリートが驚異的な能力を発揮し人間の可能性を拡張するのは、妄信的な科学信仰や常識に縛られないからだと思います。昨年北アルプスに行ったとき、スマホアプリによると5千数百kcalを消費しながら、その日は水以外の補給をしていません。週末に読んだ「運動しても痩せないのはなぜか」はこの謎を解き明かしてくれました。著者は狩猟採集生活をするハッザ族の研究を通じて、身体活動量を増やしてもエネルギー消費量に及ぼす影響は小さいことを見つけます。どれほど運動に励もうが、生存機能を維持するために消費カロリーを減らす仕組みが働くなら、ダイエット効果を信じて運動をしていた人は失望するでしょう。
飢えは止まらない
Netflix映画「ハンガー:飽くなき食への道」を見ました。タイの高級ケータリングサービスを成功させたスターシェフと、望むことなく家業の庶民食堂で料理をする主人公を通して、食べる行為の背景にある飢えについて掘り下げた作品です。セレブご用達のスターシェフが、抑圧された幼少期への復讐のために料理をするのに対して、食堂で働く人生から抜け出したいと願っていた主人公は、やがて家族への愛こそが料理の本質だと気づきます。愛のこもった料理など貧乏人の言い訳、と切り捨てたスターシェフもやがて没落を始め、主人公も華々しい世界から大衆食堂へと戻る展開にはどこか安心できます。タイの格差社会を背景に展開する迫真のドラマが伝えたかったのは、貧しいものは飢えを満たすために食べるが、カネに余裕ができても飢えは止まらない、というスターシェフの言葉なのでしょう。
目利きの力が人生を豊かにする
欧州株式市場では高級ブランド銘柄が売り込まれ、250億ドル以上の時価総額が吹き飛んだとブルームバーグが伝えます。欧州全般にインフレが需要を下押し始め、高級ブランド株が総崩れとなった格好です。加えて売上高の2割を占める中国の景気減速懸念が圧迫し、LVMHモエヘネシー・ルイヴィトンは今年のピーク時には500億ドルを超えていた時価総額は、400億ドルを割り込み年初来最安値となりました。人生には飢えを満たす必需品と人生を豊かにする嗜好品があり、後者は経済力の影響を受ける故に人は金に執着します。しかし、ブランドに代表される嗜好品は他人の物語を消費しているに過ぎず、自分の価値軸を持てない発展途上国型消費と言えます。一方で、山の用具は命に係わるので、ブランドは品質を担保してくれる必需品でもあります。嗜好性と機能性の境界は曖昧ですが、目利きの力が人生を豊かにするのでしょう。