世間では「時短」の風潮がはびこりますが、これは本来ホワイトカラーには適用されないと思います。忙しければ就業時間などお構いなしに頭は四六時中仕事のことを考えるので、工場の労働時間とは意味が違います。知的労働をしているはずの会社でも休日にPCで会社のネットワークに入ると休日出勤とみなされ会社から注意を受け、もちろん個人のメールを仕事に使うことも禁じられています。仕事こそが自分を成長させる最大の機会なのに、働くことを苦痛だと思っている企業では業務実態を無視した建前だけの勤怠管理をします。かつて在籍した会社の役員は「土日のどちらか休めば平日はどれだけ働いても人は死なない」と公言していて、その頃はよくタクシーで帰宅し翌朝は9時前に出勤しプレゼン前は週に1、2度徹夜するような働き方でした。現役時代に主体的なハードワークをしていた人は組織を離れてもアグレッシブでいつまでも元気です。一方60代で亡くなる人を見ていて気づくのは、現役時代に省エネモードで仕事をしていたことです。ハードワーカー=早死といったイメージが世間にはありますがある程度エネルギーを発散して生きて行かないとむしろ生命力は先細りしていくと思います。
絶対王者も自己と戦う
昨日の朝は体を動かしに高尾山に行きました。多くのルートが通行止めになり、小下沢の林道も山から沢が入り込み土砂で埋められ豪雨の凄さが分かります。帰路立ち寄った武蔵陵墓地は大正天皇が埋葬されて以降4陵が造営される46万平米の皇室墓地です。京都の北山杉150本が植栽される400mの参道には荘厳な雰囲気が漂います。夕方始まった1位と2位による世界最高レベルのラグビーの試合はどこか後味の悪いものでした。イングランドの早いテンポのパスまわしの連続攻撃により立ち上がり1分過ぎの先制トライで不意をつかれたニュージーランドに、本来の完璧さはなく余裕のない苦しい展開になりました。プレー中にドロップゴールを狙うなど予想がつかないイングランドの攻撃と鉄壁の守りに攻撃を封じられ、相手のサインミスで得たラインアウトからのトライでかろうじて完封負けを救われた印象があります。形勢不利が進むに連れて、除々にミスや反則が目立ち始めたオールブラックスを見ていると、世界トップのチームでさえメンタルの怖さを思わずにはいられません。相手のいるチーム競技であっても、結局は精神性など自己との戦いなのだと印象づけられた一戦でした。
聞く力の本当の凄さ
立教大学や日本工学院の授業で聞く力の本当の凄さに気づいたのは偶然です。聞く力というと、傾聴に代表されるように相手を尊重し非言語の背景を理解する能力と解釈されますが、聞く力の本当の凄さは発想力や問題解決にあると思います。授業はケーススタディ形式で、同じような状況にあったA社は成長したのになぜB社は低迷したのか、といった質問をします。学生の前で恥をかくわけにいかないので自分の考えをある程度まとめてから質問をしていたのですが、あるときその理由が自分でも分からないうちに不用意に学生に問いかけたことがあります。頭が真っ白になりかけたのですが学生が言うことを集中して聞くと数人の学生が意見を言ううちに自分ではたどり着けなかった考えが見えてきて、以来自分の考えがまとまらなくてもとりあえず質問を投げかけるようにしました。学生なんてロクにものを考えていないという思い込みを捨て相手を信頼して聞いてみると、自分では出せなかったアイデアがどこからともなく降ってくる共同作業が単なる偶然ではないことに気づきます。
裏取引文化の再評価
東京五輪のマラソン会場を東京から札幌に移す計画の発表は衝撃的でした。開催地としての妥当性よりもその意思決定プロセスが新鮮です。裏取引で事前に物事を決め、もっともらしい顔で平穏無事に議事が決まる根回し文化に慣れた日本人にとって、大会担当国務大臣や開催地の都知事さえ寝耳に水のIOC決定には違和感を覚えます。欧米企業においてはリーダーシップが重視され、日本経営品質賞の先祖であるマルコム・ボルドリッジ賞(米国国家経営品質賞)ではリーダーシップの評点に重きが置かれます。日本的な集団意思決定と欧米的なリーダーシップカルチャーの違いは一長一短ですが、少なくとも日本人同士ならこの時期に開催地を変更する決定は下せなかったはずです。アスリートファーストとは裏腹に放送権やスポンサーを軸にことが決まり、決定事項には従順に従う日本的風土の再評価が必要な時期かもしれません。一度だけ出たグアムマラソンのスタートは朝の3時ですがそれでもすぐに汗が吹き出し、7時には太陽がのぼりますのでサブ4でないランナーにとっては過酷なレースになります。酷暑の東京開催を決めた人たちのなかにフルマラソンを走った人はいないのではと疑いたくなります。
若くて当たり前の時代
先週NHKが「実年齢より“体力年齢”が若い、50代で大幅増加」というニュースを報道しました。新体力テストが始まった平成10年以降の20年間で、男女共に55歳から59歳は暦年齢より体力年齢が若い人が顕著に増え、男子の52.5%、女子の54.8%が該当します。アジア圏の国のなかで日本は若返り願望が際立って強い国とされますが、年々増加するスポーツ参加人口の増加も貢献しているはずです。多くの医師が若返り効果を強調するのは空腹(飢餓)状態で延命遺伝子サーチュインが働き全身の細胞や遺伝子を修復するメカニズムです。若返りを促進する成長ホルモンは睡眠が深い最初のノンレム状態で分泌されるために睡眠の重要性も指摘されます。興味深いのはハーバード大のカウンター・クロックワイズ(時計の針の巻き戻し)研究で、75歳の男性グループに当時の音楽やニュース、雑誌のある20年前の生活を1週間してもらうと全員の視力が平均して10%、知能テストが20%改善し被験者の写真を第三者に見せたところ若返ったと評価されました。これを聞いたからではありませんが、学生時代に聞いた曲を聞きながら四半世紀前にも乗っていたフィアットを走らせると心が晴れます。
高度情報化社会の欺瞞
かつて愛用したBlackBerryのサービスが終わりiPhone SEに交換したのは3年前ですが、その後iPhone 7、iPhone 8、iPhone XS、iPhone 11とすでに4世代も代替わりしたことになります。暴力的な計画的陳腐化により進化するICTは人の生活を便利にも幸せにもしていないと思います。スマホを肌身離さず持つことによる電磁波の本当の恐ろしさを人類は誰も経験していません。四六時中見られる動画やSNSはマインドレスネスの元凶です。迷惑メールやセキュリティ対策に要する時間もストレスになります。昔は霞が関の政府刊行物センターに行き1冊1,500円ほどした有価証券報告書を買いましたが今は無料でダウンロードできます。かつては半日つぶしてセミナーに行きましたが、今はユーチューブなどの画像を見てしまえば事足ります。昔は情報調査会社を利用しましたが無料の公開情報をつなぎあわせるとたいていの用事は済みます。経済的な負担なしに情報や知識を簡単に得られる時代が人間を賢くしたのかは疑問です。パソコンのない牧歌的な時代に社会に出た自分が高度情報化社会を素直に喜べないのは、社会の進歩をそこに実感できず他ならぬ人間自体を置き去りにしている気がしてならないからです。
陰謀論は好ましい?
即位礼正殿の儀の行われる今日は生憎の天気で、被災地にとっては非情の雨になってしまいました。深い爪痕を残す台風19号が気象兵器による陰謀だと一部の人は信じています。タイタニックの沈没に始まり、ケネディの暗殺、アポロの月面着陸、911テロ、マレーシア航空機の失踪、日本なら日航機墜落事故や311まで様々な陰謀説が流布されてきました。エスタブリッシュメントを自認する人にとって陰謀論など悪いジョークに過ぎませんが、半信半疑の娯楽だった陰謀説が本気で信じられるようになった背景には政府やマスコミ、大企業への不信感があると思います。遺伝子操作された農作物や農薬のようにどこまでが経済的、政治的な思惑でどこからが陰謀なのかは曖昧ですし、恐怖を煽る荒唐無稽な話も少なくありませんが、911テロのように残された状況が不自然で陰謀論を支持しない方が説明が難しいケースもあります。日航機事故当日のことはよく覚えていますがあれほどの巨体で地上からの目撃が相次いでいるのに、翌日まで墜落地点が特定できなかったとする対応の不自然さが陰謀説の入り込む余地を生みました。2020年首都直下人工地震説なども唱えられていますが、リスクマネジメントやクリティカルシンキングの観点からは、陰謀論はむしろ好ましい面を持つと思います。
選手自身が動かすチーム
ラグビーワールドカップが世間の耳目を集めるのは4年に1度という希少性によるところが大きいと思います。ショービジネスである点において他のプロスポーツと違いがないのにこれほど多くの人を魅了する理由は、選手生命にとってはまさに一生に一度の大舞台ならではのプレーに対する執念や集中力を感じるからです。甲子園や箱根駅伝が国民的人気を誇るのもオリンピックの理念であるアマチュアリズムによるところが大きいはずです。安倍政権の成長戦略のなかでスポーツ産業は重点分野ですが、過去20年でアメリカのスポーツ産業が3倍に成長したのに対して日本ではむしろ減少しています。相次ぐスポーツ指導者による不祥事など、日本のスポーツ界にはいつも陰影がつきまといます。初めて外国出身選手を主将に任命した平尾誠二元日本代表監督の命日に開催された初めての準々決勝を戦ったのは多国籍チームで、海外出身の選手が日本の国歌を斉唱する姿が印象的でした。指揮官の上意下達が当たり前の日本スポーツ界にあってリーダーシップを共有した選手自身が動かすチームの強さをラグビーが教えてくれたと思います。
偏狭な発想を壊す多国籍集団
日本中にラグビーファンを増やし今年放送された全番組中最高の視聴率を連発するワールドカップの盛り上がりは、3連覇4度目の優勝のかかるニュージーランド代表チーム「オールブラックス」によるところが大きいと思います。125年の歴史で77.3%の勝率を誇り、あらゆるスポーツの代表チームを上回る最強チームのブランド力は抜群です。スポーツ史上最も成功したチームの原動力は素早くトライを挙げる多様な攻撃スタイルなど、ニュージーランド国民のアイデンティティを形成するラグビーそのものの強さにあります。加えてラフプレーの少なさや創設以来の黒いユニフォーム、試合前に演じるハカなど”ALL BLACKS”がニュージーランドラグビー協会の登録商標であるように、自国以外の海外でのファン層拡大を狙うブランド構築は巧みです。今夜注目される日本チームの特徴は多国籍集団にあり、日本企業の強みであり致命傷でもある純血主義や学閥偏重といったプロパー重視の偏狭な発想にとらわれないチームは望外の成果を上げています。赤いオールブラックスは経済成長が止まり劣化が懸念される日本社会のあるべき姿を示しているように思えます。
リピーターという病
世の中にはちょっとした違いがあふれていると思います。ちょっと便利、ちょっと上質など、本質とは無縁の微細な違いで商品を陳腐化させないと経済が回りません。昔は差別化と呼び、差別はいけないので差異化と呼んだりもしますが、同質化する競合商品との違いにより競争優位を築こうとするのは世の常です。ブルーオーシャンのつもりがすぐに血の海に変わり共食いが始まる競争環境では、その差異もわずかな違いでしかありません。違いが微小化するに従い計画的陳腐化が難しくなりマーケティングの手口はより巧妙に進化します。心理学を抱き込んだ行動経済学では物足りず脳科学と融合した神経経済学へと発展したのはそのためでしょう。消費者の報酬系を活性化させドーパミンを分泌させ続けることが必要です。飲食店の主人は報酬系刺激とかドーパミンマネジメントという言葉は知らなくても、なかなか食べられない裏メニューを出すことでリピーターという依存症を作る脳内麻薬を心得ています。そして不要不急の消費の結果がお腹の脂肪に現れることになります。