ランニングをする人にとっての神学論争は足のどこから着地するかです。長年のプロパガンダによって一般人はかかと着地以外の選択肢を考えませんが、メキシコ北西部の山岳に暮らす走る民族タラウマラ(ララムリ)が、世界的ベストセラーになった「BORN TO RUN–走るために生まれた」で紹介された頃からつま先着地のフォアフット走法が注目されるようになりました。ゴムタイヤと革紐のワラーチか裸足で走る彼らは、レジャーや競技のためではなく生きるために走り、それは人間本来の走り方に近いと考えられます。長年信じられてきたかかと着地のヒールストライク走法を分析的に見ると、実はあまりメリットがありません。一方接地時間が短かく、筋肉への負担が和らぐフォアフットは効率的なだけではなく、拇指球、小指球、踵の3点を結ぶアーチが足にかかる衝撃を吸収し膝や腰の故障を回避します。さらにふくらはぎのポンプ機能が働きやすく血行も改善します。日本の草履もフォアフットに適した構造ですが、産業化がもたらす生活変化よりも伝統文化に学ぶべきことは多いと思います。
使うではなく買う
トヨタ、ランドクルーザーの納期が4年程度と伝えられます。トヨタのジャストインタイムをしても縮めることができない納車期間が、当初5年とも言われた超長期に及ぶのは、一連のサプライチェーンの混乱に加え世界受注が好評で日本への割当が減っていることも一因のようです。フェアレディZやサバンナRX-7などのスポーツカーがプアマンズポルシェと呼ばれた70年代、80年代、レクサスやインフィニティが金持ちに見えないビル・ゲイツなどの新興富裕層に買われたのが80年代、90年代なら、今世界を席巻するのはランドクルーザーや常に納車一年待ちのジムニーなどのオフロード志向の車でしょう。テロリストの軍用車として売られることが国際問題になるほど砂漠での信頼性も絶大です。過激過ぎる温暖化対策へのささやかな抵抗なのか、転売目的の注文が含まれるにしても、若年層の車離れなど明るい話題の少ない自動車業界にとっては朗報でしょう。自分なら一年でも待ちませんが、現代の消費は使うことではなく、買うことに意味があるのかもしれません。
起業は当たり前
サテライトオフィス発祥の地とされる神山町を擁する徳島県のイベントに行きました。人が人を引き寄せる神山町の軌跡を見ると、補助金のメリットだけで企業や住民を呼ぼうとする自治体とは対照的です。来てほしい企業を逆指名したり、ユニークな取り組みが奏功して日本のどこにでもある中山間地域の人口5,000人の町が全国区の知名度を得ました。全域に光ファイバーが敷設されるなどインフラ上の利点はあるものの、その誘致手法は戦略的です。20年以上続くアーティスト・イン・レジデンスを皮切りにワーク・イン・レジデンスでサテライトオフィスを誘致し、シェフ・イン・レジデンスなどのレジデンス戦略が秀逸です。レジデンスとは滞在期間を示し、他の自治体のように移住にこだわらず、いわば出入り自由の関係人口構築を当初からコンセプトにしました。その総仕上げとも言えるのが2023年春開校予定の神山まるごと高専です。認可されるとノルウェーにある大学に次ぐ世界で二番目に小さい町の高等教育機関になります。起業家が創業メンバーとなるこの学校の卒業生にとって、起業が当たり前になることを期待したいです。
買えなくて良かった
パソコンを買おうとして面倒なプロセスの最後でカード決済ができませんでした。翌日カード会社に確認をすると海外とのある種の決済にロックをかけているとのことです。期間が過ぎてしまいセール品のパソコンを買い損ねましたが、買えなくて良かったと思いました。年を重ねて少しだけ利口になったことの一つに最善観があります。哲学者の森信三氏の人生に対する信念で、「いやしくもわが身の上に起こる事柄は、そのすべてが、この私にとって絶対必然である共に、またこの私にとっては、最善なはずだ」という考えです。このときもセール品は買えませんでしたが、後で型遅れながら搭載メモリの大きな機種が見つかりむしろ好都合でした。キャリアの8割は予想しない偶発的な出来事により決定される「計画された偶発性理論」にも似ていますが、与えられた機会を活かし、積極的に機会を作り出す行動が必要でしょう。仕事を干されるとか、不快な人間関係とか、嫌なことは結局すべて好転のきっかけになることが分かります。我が身の不遇を嘆く前に事態を好転させる能力を身に付ける反応選択が求められると思います。
旅は人生を削ぎ落とす
英国内を旅行する娘とラインのビデオ通話をしました。スマホのおかげで遠く離れた場所を手軽にバーチャル体験でき、旅の可能性を広げます。昨日いたエディンバラは、工業地域でないことからドイツの爆撃を免れ古い建造物が残る美しい街です。雰囲気とおおよその地形がわかるバーチャルツアーは一人旅の定番になるかもしれません。旅には様々なスタイルがありますが、日常を忘れる漂白の時間が好きで、一人、あてもなくわずかな荷物で行くことに魅力を感じます。一人旅はまわりの価値観にあわせる必要がなく、背負い込んだものを削ぎ落とし内側にある自分と出会う機会になります。持っていける荷物に制限があるゆえに持ち物を真剣に考えます。これは人生も同じで、何が本当の幸せか知らないまま漫然と幸せを求めて生きると、余計なものばかりが増え、いらないものを背負い込んで生きることになります。最後の旅立ちには全ての荷物を置いていくのに人は溜め込む人生に疑問を抱きません。未知の世界への旅を恐れるのは失う恐怖であって、人生を削ぎ落とすことが必要でしょう。
土に近づく生き方
昨年話題になった映画ノマドランドを見ました。放浪生活をする年配の季節労働者を描いた、何事も起こらないドキュメンタリー風の映画が注目されるのは、65歳以降も働く必要のある米国人が83%という現実があるからです。映画のなかでは存在感を主張しないバンは家であると同時に伴侶であり、それ故に主人公は定住生活に戻らないのかもしれません。お風呂に入らないと気がすまない日本人にとってバンでの流浪生活はハードルが高いものの、自然とつながり人との絆が育まれる漂白の旅は希望の光に見えます。貨幣経済と言うくびきを自らに巻きつけた現代社会の先に生命力を発露する場はありません。この映画に希望を見出すことはできませんが、他方で仕事と家と夫を失った未来に行き場のない主人公は、生き方を選択する点において決して取り残された人々ではないと思います。どこへでも移動できる自由と健康さえあれば、自然とのつながりを感じながら自分をそぎ落としていく生き方は、むしろ清々しさを与えます。あらゆるものを引きずる囚われの人生から抜け出す方法は、土に近づく生き方なのでしょう。
自分の思考と判断力だけ
喉は多くの人にとって商売道具で気を使いますが、珍しく痛くなりました。喉の痛みは風邪の前触れですが、生姜とレモンの入った紅茶を飲み、身体を温め、何も食べずに早く寝れば一晩で解消して発症することも熱が出ることもありません。すぐに薬に頼る日本人的な条件反射は、必要のないところに欠乏を生み出すことによって成り立つ現代の経済を支えます。自然免疫を高めることで人体は自らの身を守るように作られていますが、産業にとってはその素晴らしい自然治癒力は邪魔です。コロナ禍で誰もが感染症対策を徹底した結果、日本中が健康になり2020年は異例なことに過小死亡となりました。一方で昨年は東日本大震災の年を超える超過死亡となったことには留意が必要でしょう。多くの動物が自然災害の予兆を察して逃げますが、最後まで気づかない現代人は昨日までが平和だから今日も平和だと安心します。疑いを知らず、権威に盲従する日本人は嘘のはびこる世界に免疫がありません。儲け話が転がっていないように本当の話は誰も教えてくれるはずもなく、自分の思考と判断力だけが生き残る鍵の時代に入ったように思えます。
18世紀以降は虚構の歴史
早朝にラブラドールと散歩に行くと、日の出の遅い今の季節は星空がきれいに見えます。近所の畑のまわりだけは空が広がり、遠く夜空を見上げると気道が広がり体内に取り込む酸素が増え自律神経のバランスが整う気がします。もし将来も今の家で暮らすとしたら、この畑と神社は唯一宇宙や自然とつながれる場所です。宇宙や自然はただそこに存在するだけでわれわれの中に侵入してくることはしませんが、都市はあらゆる刺激や情報が土足で踏み込んでくる場所です。近代文明により実現された今の生活こそが人体を蝕み、一方で文明の発達が人間らしい生活を実現しています。理想の時代を探すとしたら、おそらくアメリカのマクガバンレポートが現代人の理想的な食生活とした日本の元禄時代でしょう。また17世紀半ばの明暦の大火が江戸を焼き尽くした後、分散された大名屋敷に庭園が造られ、江戸を世界屈指の庭園都市にしました。諸悪の根源は産業革命以降富の蓄積が肥大化し、欲望の暴走を止められなくなったことだと思います。18世紀以降今日に至る文明構築の過程は虚構の歴史だったのでしょう。
お試しバーチャルツアー
昨日は英国のバースにいる娘とラインのビデオ通話をしました。バースはロンドンに次ぐ観光地で、18世紀のジョージ王朝様式の建造物が数多く残るユネスコの世界文化遺産に登録される都市です。ローマ人の侵攻によりその支配下で2世紀頃温泉の街として発展したことに歴史は遡ります。世界各地が国境を閉ざして旅行者を拒絶する時代に入り注目されるバーチャルツアーですが、概ね40分で3,000円程度が相場のようです。アマゾンも参入した世界各地を巡る新しい旅行体験に魅力があるのか疑問でしたが、少なくとも遠く離れた家族間では利用価値があると思います。コッツウォルズ地方特有の琥珀色の石灰岩で造られたジョージアン建築が、朝日に照らし出されて温かい色合いで美しく映えます。保養に訪れる貴族のために設計された豪華なテラスハウスであるロイヤル・クレセントは三日月型の曲線が美しくどこか大陸的な表情を見せます。氷点下のバースで霜を踏む音が聞こえるリアリティと、その左の建物に近づいて、といったインタラクションは新しい旅の魅力であり、旅行を喚起するポテンシャルを持つと感じます。
春が近づくのは名残惜しい
今日からは日の出時刻が早くなり始め春に向かう感覚が始まります。寒さは続きますが、年末から延び始めた日没時刻や日照時間に加え、日の出時刻が早くなると寒さに伴う悲壮感は消えて行きます。結局今年も来客時以外に我が家の暖房機が動くことはなく、それも4台あるうちの1台のみです。人類史は空腹と寒さとの戦いで、この環境下で獲得した倹約遺伝子のおかげでわれわれはほとんど食べずに体に脂肪を蓄積することができます。脂肪は空腹時のエネルギーとなり寒さから身を守る熱源にもなるサバイバルシステムですが、飽食時代の現代人にとってはありがた迷惑になります。ゲノムに変化が生じ、脂肪を蓄積せよとの倹約遺伝子の指示を無視するには今後4万年から7万年程かかるとされますので、現生人類においても飢餓や寒さの環境で生きることがデフォルトです。飢餓時代を生き抜いた末裔である我々が空腹時間を多くすることで生命力を高めるように、氷河期を経験した祖先の血を受ける現代人も寒さに対する防御反応が生命力を高めます。そう考えると春が近づくのは名残惜しい気がします。