かつてはどの家庭にもあった時刻表は今も健在です。ステイホームにより時刻表で旅行気分を味わう人が増えたようにノスタルジックな感情を伴うからでしょう。昔は時刻表をよく見ましたが、それは主に後ろの頁にある宿泊施設の値段です。今ではOTAサイトに変わりましたが、旅館やホテルの市場価格を定点観測します。経済が動き始めると、以前より価格が高くなっている高級ホテルや旅館が目立ちます。とくにコロナ禍のリベンジ消費がトップエンドの価格帯にある宿泊施設を強気にさせていると思います。政府と産業界は中高年が抱え込むお金を吐き出させることに腐心しますが、日本人の多くが大金を抱えたままこの世を去るのは老後に不安があるからです。老後の生活を心配する人の数は90年代には6割前後でしたが今や9割の人が心配していると言います。しかし、心配の必要がない人まで消費をしない本当の理由は、買いたいものがないからだと思います。ラグジュアリホテルや豪華列車、クルーズ船の旅も悪くないのですが、それらのパッケージ商品に欠けるのはよりアクティブで、人が行かない特別な場所でのお仕着せでないユニークな経験だと思います。しかし問題の核心は再現性のないそれらが産業化できないことでしょう。
お知らせ
腹八分目なんて無理!
職場での昼食に手作り弁当が急増していると伝えられ、ある調査ではコンビニなどの弁当を大きく上回ります。オフィス街の飲食業にとっては脅威ですが、食事を作ることは健康増進の第一歩です。毎日都心に通っていた10年ほど前は、ホテルのランチめぐりに今では考えられない食費を支出していました。しかし、糖質制限による肥満解消を機に食べる回数が減ると健康実感が明らかに改善しました。体に良いものを一日三回食べるより、たとえ不健康な食事でも一日一回の方がはるかに体調は良くなります。食べない方が健康というパラドックスを受け入れると食べ物への執着は無くなります。空腹なら何を食べても美味しく美食にも無関心になり、農薬や添加物にさえ神経質になることもありません。よほどリスクのある食品なら食事を抜くだけですから一石二鳥です。週末の山小屋での食事は天ぷらで、油はきっと酸化した加工植物油だと思いますが、運動をした後の一日一回の食事ですから胃もたれもありません。健康の秘訣とされる腹八分目で食事を止めることは難しく、一日一食にする方が容易かつ効果的な方法だと思います。
贅沢よりも悲惨な週末
日常生活に満たされない人は、それを埋め合わせるために非日常の贅沢を求めます。他方で金のかかる幸せが見落としている点は、期待値を上げることでも下げることでも満足が生じることです。ずぶ濡れ、泥だらけで寒さに凍えるような惨めな週末は、幸せを持続させる方法だと思います。雨露をしのげて温かい風呂や布団に入る幸せ、粗食であっても食事にありつける幸せを思い出すにはキャンプや山小屋の滞在は最適でしょう。自然のなかで眠るキャンプに魅力を感じても、その不便で不快な環境に抵抗を持つのは普通の反応です。一方でネガティブな面を補って余りあるキャンプの魅力を産業界が放っておくはずもなく、安楽で快適な、しかし大自然の醍醐味の足りないグランピングが妥協の産物として商品化されます。マゾヒストならずとも不快な環境を歓迎すべき理由は、人体が飢餓により長寿遺伝子を活性化し、寒い環境に置かれることでミトコンドリアが強化されて生き残る確率を上げるからです。危機対応に最適化した人体の有り難い能力をフル活用した週末こそが、生きる力と幸福感を同時に与えてくれると思います。
月曜日の高揚感
昨日は苗場山2,145.3mに登りました。正確に言えば山頂直下の雪に埋もれて凍りついた最後の鎖を掘り出せず、その特徴的テーブルマウンテンの頂きには立っていません。昨年のこの時期は雪の爺ヶ岳(2,670m)に登りましたが、秋と冬を一度に楽しめる魅力はこの季節ならではです。苗場山五合目にある赤湯温泉の魅力はお風呂での情報交換です。ネット全盛時代でも事情通による生の口コミは極めて有益です。印象的なのは若者が増えたことで、トレイルランニングやスピードハイクの普及により、鍋釜を担ぎ上げる昭和の登山スタイルから、より身軽でファッショナブルなスポーツに山登りは変貌しています。登っている山と季節を聞けばその技量はおおよそ想像がつきますがマニアックな登山をする人の裾野が広がっている印象です。自分のまわりに限ったことでしょうが、全ての生活を山登り中心に据えている人は少数派ではありません。世間的にはせっかくの休日に疲れる山登りなど、ましてや寒い季節に雪を喜ぶ神経など理解し難い人が大多数だと思いますが、週末でも自分を甘やかさないアクティブレストのメリットは、達成感と月曜日の朝感じる高揚感でしょう。
優雅さかプライスレスか
昨夜は苗場山の5合目にある赤湯温泉に泊まりました。徒歩でしかアクセスできない秘湯は、途中みぞれから激しい雨に変わるあいにくの天気でしたが、むしろ山の出湯らしい風情があります。2時間ほど歩いて宿に到着し、川沿いの露天風呂につかると絶妙な温かさに極楽や天国という言葉しか思いつきません。自分で荷物を背負い、粗末な山小屋に泊まり、野性味あふれる河原の露天風呂に夜はヘッドライトの明かりを頼りにつかる圧倒的なリアリティーは優雅さとは無縁ですがプライスレスです。高級な宿が提供しえないものは、自らの体を使う身体感覚と誰かがお膳立てしたわけではないありのままの現実でしょう。飲水は川でくみ、シーツやタオルも持参しますが簡素な部屋は快適で、雨の日のテントに比べればまさに天国です。多くの旅館は大概期待値と満足は大きく変わりませんが、民宿の魅力は期待値を超える料理にしばしばお目にかかることです。人力以外の輸送手段を持たない山小屋なら、料理はいつでも期待値を超えます。
心の中のサイレントインベージョン
冬への気候変化が年々急激に思え、寝床から出たくない季節になりました。布団の温もりが究極の快楽に思えます。しかし快楽の誘惑と生命力はいつもトレードオフの関係にあり、動かないでいると身体は弱り、一方で冬は不便な季節ではなく寒さに身を晒せばミトコンドリアは強化されます。星のや軽井沢ではウェルネスプログラム「森林養生」を数年前から提供し、宿泊料以外に一人181,500円(2泊3日)の料金が必要です。メディアが絶賛するこれらのプログラムはリラクゼーションが中心で、副交感神経優位に偏り自律神経のバランスを崩しそうです。生粋のスポーツマンである星野社長自身は間違ってもこんな週末を送ることはないでしょうが、世間が欲しがりそうな高付加価値商品を生み出すことにかけて星野リゾートの右に出る企業はありません。かつてテレビドラマの全盛期にはキラキラした世界への憧れが人生のあらゆる側面を支配してきました。やがて豊かになったこれらの世代は、今度は終わりのない自己改善のために、セレブお墨付きのプログラムを試すようになります。そして心の中に入り込んだサイレントインベージョンに生涯気づくことはないのでしょう。
言われるままに働きお金を使う
幅広い分野で価格上昇傾向が続きコロナショック後の経済回復に水を差すことが懸念されます。資源価格の高騰は身近な問題で、行動範囲で最安のガソリンスタンドに昨日行くと値上げをしていました。ディーゼルで燃料タンクは35Lしか入りませんので支払い額は3,500円程度ですが、少し前なら3,000円ほどですから値上げを実感します。しかし今より燃料が安い時代に乗っていた以前の車は毎度ガソリンスタンドで1万円も払っていたことを考えれば使うお金は半減しています。以前はスーパーでの食料品の買い物も1万円払うことは珍しくありませんでしたが、食べる回数が1、2回に減ると食費も半減します。経済発展に貢献すべきなのでしょうが、ガソリンを撒き散らして、身体を壊すほど食べることで成立してきた経済に価値を感じません。多くの人生はお金と時間のトレードオフの上に成立し、お金のために働きますが、そのために仕事が本当は自身の生き様であることを忘れます。言われるままに働き、言われるままにお金を使う人生は、自分の価値感からは離れていくと感じます。
旅の本質
ライブカメラの普及により阿蘇山噴火の緊迫感がほぼリアルタイムで全国に伝えられます。普賢岳や御嶽山の記憶が新しいだけに、駐車場から車が一気にいなくなる様子からは現場の切迫感が分かります。よく訪れていた阿蘇は、度重なる水害や地震など数々の災害から立ち直ったところにコロナ禍が襲い、追い打ちをかけるように噴火が伝えられ風評被害が心配です。日本は災害から逃れることができない宿命にありますが、一方で温泉を始め世界最大規模を誇る阿蘇カルデラはジオパークに指定され、地球の営みをダイレクトに感じることができる独特の場所です。日本各地はそれぞれに魅力を持ちますが、一方で既存の旅行提案は気分転換を超えるものではないと思います。その土地ならではの景色や豪華な客室、美味しい料理といった商品に時間とお金を使って出かけるモチベーションがわきません。足りないものは旅のリアリティ、すなわち身体感覚の欠如だと思います。自分の周囲は自然のなかを走る自虐的なアスリートが多く「変態」と呼ばれることを歓迎する特殊な集団ですが、長距離レースにのめり込みそれを旅と表現することに、本質が隠されていると思います。
労働マルチの詐欺師にも劣る?
コンビニに行く機会はマルチメディア端末を利用する時ぐらいですが、家から少し離れたセブンイレブンに行くのは店頭で野菜を売るマルシェに行くためです。売られているのは新鮮さを欠いた見切り品らしく、妻には安物買いの銭失いと言われますが魅力的です。もちろんそれは価格なのですが、品質が保証されているスーパーとは違い目利き力が試されます。通常のマルシェは新鮮さを売りにしますが、賞味期限に過剰反応すれば食品ロス問題が生じます。流通からはじかれた野菜であっても品質に問題が無さそうなものも含まれ、ロンドンやアムステルダムでは仕入れの8割以上を廃棄野菜に切り替えた高級レストランが成立しています。バナナは熟れ過ぎぐらいの方がむしろ糖度が高くビタミンB6、トリプトファン、リン脂質などにより免疫力向上とダイエット効果が期待できます。廃棄食材と言えば若者のやりがいを搾取するフルーツの路上販売がたまに我が家にも来ます。独立という夢で若者を錯覚させる完全歩合制委託業務の労働マルチ詐欺師の方が、多くの経営者よりモチベーションの重要性を理解していることには複雑な気持ちになります。
冬こそアウトドア
気温が急激に下がり、美しい青空と爽やかな澄んだ空気が気持ちの良い季節になりました。各地の山岳地域で降雪が始まると、紅葉より楽しみなスノートレイルの季節の到来に心が踊ります。新緑も夏山も捨てがたいのですが、全身が喜ぶ冬のスノートレイルをおいて、身も心も幸せになれる季節はないと思います。動物が眠りにつく真冬ですが、年中食べ続ける現代人は冬こそ身体を動かすべきでしょう。基礎代謝量の季節変動は10月を最低に1、2月に上昇します。外気温が低いために内臓や筋肉などの組織を寒さから守り機能を維持するには、より多くのエネルギーを必要とし、基礎代謝が上がります。冬は汗をかきにくいので、運動が楽にできる季節でもあります。新雪を踏むスノートレイルランニングは気分が良いだけではなく、怪我のリスクが少なく、ウォーキングなど一定のリズムで行う有酸素運動は、セロトニン、エンドルフィンの分泌を促し、冷え性、冬季うつの予防と解消にもなります。冬こそ幸せな気持ちになれるアウトドアで過ごすべきだと思います。