普段は一日1.5食ですが、山では一食です。行動中に食事や補給をすると、血糖値スパイクにより2、3時間後に今度は体が低血糖に陥り動けなくなるリスクがあり、宿泊地に着くまでは水以外口にしません。これはこれで問題なのですが、メリットは食糧を携行する必要がないことです。多い日の運動量は4、5,000kcalに達するのに対して、血液中や筋肉、肝臓に貯蔵されるグルコース約800kcalのうち、600kcalは就寝中の基礎代謝で消費され、日中の運動プラスαのエネルギーは脂肪組織に蓄えられた中性脂肪が燃やされます。この時オートファジーが引き起こされ、身体を細胞レベルから解毒し、同時にミトコンドリアのエネルギー産生を強化しますので、「食べずに運動」こそ最良の健康法だと思います。何より運動後の食事の美味しさと言ったら比べるものがありません。たとえそれが携行食の即席ラーメンだとしてもです。
お知らせ
伝統の自然調理法
北アルプスに行っている数日の間、ぬか床を冷蔵庫に保管して出かけたところ、帰ってみると普段と匂いが違います。ぬか床をペットと言う人もいますが、元気がなくなっているのが分かります。ぬか床をボールに出して腐敗菌が嫌う塩を入れてよくかき混ぜ、洗った容器に移し替えると翌日には異臭は消え、元気になるところはまさにペットです。ぬか漬けが食卓に上るようになってから調理に対する考え方が変わりました。野菜を入れておくだけであとはぬか床が勝手に調理をしてくれて、野菜の栄養価が高まります。同様に天日干しも便利な調理法で、時々安く売られるシイタケなどを買って天日干しすれば、ビタミンDの栄養価が上がり保存もできて一石二鳥です。かつてはどの家庭でもぬか床や野菜などを干す網がありましたが、保存技術の進歩やコンビニの普及など、便利な生活は伝統的な恩恵を記憶から消していくのでしょう。
帰ってきたのにもう行きたい
最近の山の天気予報はあてにならず、先日の黒部五郎岳の3時間毎の天気予報はどの時間帯も登山に適するAでしたが、翌日は朝から雨が降り続き稜線は強風でした。山の天気は変わりやすいとは言え、翌日の予報をここまで極端に外すと、価値がない以前に危険です。天気予報を信じて黒部五郎小舎でテント泊の予定でしたが、風雨のなかの設営と撤収が面倒で下山することにしました。雲ノ平から薬師沢を通る最短ルートは往路に使ったので、三俣蓮華岳、黒部五郎岳、北ノ俣岳の3つのピークを越える25kmです。トレランザックなら問題のない距離ですが、キャンプ道具を背負うと消費エネルギーは5,000kcalを超え体力が消耗し、風雨とどこまでも続く飛越新道の泥沼もあって、歩いているときはもう来たくないと思いました。しかし、体を酷使した達成感がそうさせるのか、翌日にはもう秋の北アルプスに引きつけられています。
自然と建築物の幸せな関係
北アルプスでは雲ノ平山荘とテントに宿泊しましたが一長一短です。結論から言えば、山小屋が自然と建築物の幸せな関係を作れるどうか、その場所でしか味わえない時間の過ごし方の提案であり、経営者のセンスとこだわり、演出次第だと思います。テント泊はプライバシーが確保され、自然をより身近に体験でき、どのように過ごすかは自分で演出できますが、強風・豪雨のなかでの設営・撤収は避けたい事態です。山小屋は荷物を減らせるために行動範囲が広がり、栄養のある食事が摂れるのに対して、テント旅は自然をダイレクトに感じる身体感覚を伴い、水と排泄以外は自己完結するある種の達成感を得られます。山小屋は1泊2食13,000円の相場形成がされつつあり、30%程度のキャンセル料を取るところもありますが、テント泊なら予定を決めない旅ができます。雲ノ平山荘のレベルに達していれば山小屋、それ以外はテントという判断になりそうです。
黒部源流の帝国ホテル
帝国ホテル一軒しか宿がなければ上高地はもっと素晴らしい場所だった、と言えば関係者に怒られますが、そんなことを思ったのは昨日、雲ノ平山荘に泊まったからです。山好きの間で秘境として知られる景色の美しさは掛け値なしですが、その評判を伝説の域に高めたのはこの山小屋の存在が一因でしよう。「黒部の山賊」に書かれた戦後の混乱期に山小屋を建てたフロンティアの物語に思いを馳せながら、なぜか下界より安いハンドドリップのコーヒーを飲み、テラスで眺める景色はプライスレスで、3倍以上の宿泊料金を取る上高地帝国ホテルよりもゆったりと時間が流れます。LPレコードが響く食堂でのおかわり自由の石狩鍋も絶品でした。これまでは、山小屋よりプライベートが確保されるテント派でしたが、それは日本にセンスの良い山小屋がないからだと思います。
雲ノ平は近かった?
雲ノ平は白馬連峰、剱岳や立山、穂高や槍ヶ岳の3つの巨大な山陵の接合点にあり、それ故どこからも遠く最短の折立登山口から13時間かかり最後の秘境と呼ばれてきました。昨日登った飛越新道は折立ルートより3時間ほどコースタイムが長いものの、首都圏からの車のアクセスは50kmほど短く実質最短ルートと言えますが、稜線までの4時間は誰にも会いませんでした。このルートが不人気な理由はおそらく泥沼のトレイルが続くことと思われますが、それさえ気にならなければ、小屋泊まりの少ない荷物なら首都圏から一泊で雲ノ平に行くことは十分可能です。山の楽しさは身体を鍛え荷物を減らせば行動範囲が広がり、憧れの地が週末行ける場所になることです。今回の反省は前回あまりにお腹が空いた反動で食料を持ってき過ぎたことです。山では限りある食べ物を有り難く食べるに限ります。
想像できないから旅に出る
今年2度目の北アルプスに来ました。前回のTJARの応援は妻とですが今回は1人です。単独行はリスクもある反面、自分のペースを保ち好きなように動き止まれるので旅の気分が盛り上がります。短い間隔で再度訪れた理由は、前回通過した雲ノ平山荘にどうしても泊まりたくなったからです。こんな事は6年ほど前に、なぜか引きつけられるゲストハウスがあってペナンを訪れて以来です。宿を目的とした旅行はホテルツーリズムと呼ばれますが、どんな豪華な施設であれ既視感のあるところに行きたいとは思いません。そこに行かなくても想像の範囲だからです。ペナンのゲストハウスも雲ノ平山荘もその時、その場所にたたずんだ自分の感情変化を知りたいと思えます。何を見て、何を感じるのかが、過去の自分の経験に照らしても想像できないから、人は旅に出るのだと思います。
415kmより遠くまで走れる?
TJARに魅了されるのは、山岳レースが、自分がする唯一のスポーツというだけではありません。人体の可能性探求を通じて文明や近代科学の常識を問い直すのに、これほど適した実験はないと思うからです。日本を縦断する5万Kcalもの途方もないエネルギーがどこから来たかが解明されると、人間ははるかに少ない食糧で生きられるという、常識を覆す知見が得られるかもしれません。100マイルの山岳レースにおけるランナーの腸内細菌叢の研究は海外が先行しますが、荒天のためスタートから31時間後に中止となった昨年のTJARでも9名の選手を対象に順天堂大学が調査をしました。身体活動量が非常に高い状態では、免疫機能にとって重要な酪酸産生菌が減少し体調に悪影響を及ぼした可能性が指摘されます。酪酸産生菌の減少を防ぐための食品摂取により肉体疲労や体調不良を予防できるなら、人間はもっと遠くまで走れる可能性があり、今年の研究成果が待たれます。
ファインプレイではなく葛藤
季節の終わりに寂しさを感じるのは夏だけでしょう。TJAR (Trans Japan Alps Race)ロスもあって、すっかり夏が終わった気分です。賞金の出ないレースに参加費33,000円を払い平均年齢40歳の30人だけがスタートラインに立てる2年に一度の祭典は、人間が挑戦しうる最も過酷な試練でしょう。サラリーマンが取得可能な1週間の夏休みで、日本海から3,000m級の連なる日本アルプスを越えて太平洋まで自分の足で踏破するというロマンあふれる旅は、2002年に4人が始めた草レースから20年が過ぎ、2012年にNHKスペシャルで放送されたことをきっかけに今や世界最長のトレイルレースとして知られます。想像を絶する過酷さに加え、ルール変更により山小屋での食料調達や例外的に認めていた一ノ瀬チェックポイントでの差し入れも禁止され登山の原点に戻るというストイックさこそ人気の源でしょう。人々を熱狂させるのはファインプレイではなく、背後に秘められた人間的な葛藤のドラマだと思います。
サイエンスとスピリチュアリティー
ジョー・ディスペンザ氏の著書「あなたはプラシーボ 思考を物質に変える」を読みました。近著「超自然になる」同様500ページを超える大作ということもありますが、片手間に読むべき本ではないと思いしばらく積読になっていました。私たちは過度の思い込みに感情を支配され、その点においてパブロフの犬たちと同じです。条件付けにより人体は生理的変化を起こし、時空を超えた量子場において、意識とエネルギーが、われわれが現実だと信じる物質世界を作り出すと言います。全てのものに形を与えるのは意識であるとする結論に納得するのは、北アルプスでの不思議な経験があったからです。すれ違った登山者が使っていたミント系の虫よけの香りが数日経っても香るのです。そこにあるはずのない匂いを感じるのは化学物質を自分の脳が作り出したことになり、サイエンスとスピリチュアリティーの融合は魅力的な命題です。