小麦が人間を栽培している

我が家で合法麻薬と呼ばれる食パンを時々業務スーパーで買います。その強毒性を考えれば天然酵母であろうが免罪符になりません。精製された小麦で作られる食パンはそのGI値の高さからして世界最安、最強の合成麻薬と言えるでしょう。しかしフィトンチッドやラジウム泉が人体に良いように、微量の毒はホルミシス効果によりミトコンドリアを活性化し人を健康にするとされます。われわれは食べることについて大きな思い違いをしていて、食べる喜びを決めるのは神経伝達物質の分泌量と受容体の感度で決まることです。贅を尽くした高級飲食店の美食の喜びと、ときには4、50円で売られる食パンがもたらす幸福感は実はあまり変わらないのです。この不都合な真実を知るなら余計な出費をせずに日常を美食の喜びに変えることができます。中毒にならない程度の自制心は必要ですが、きつね色に焼かれたトーストほど人間を魅了する食べ物はありません。小麦が人間を栽培しているという比喩は真実でしょう。

今も昔も犬との関係は特別

昨日はラブラドールをシャンプーに連れて行きました。我が家に来て7年ですが、先代のラブラドールも含めてプロにお願いするのは初めてです。普段はあまりかまってもらえない我が家のラブラドールにとって、爪切りや歯磨きまでしてもらえて休憩を含め3時間ももてなされ、おやつまでもらえるとなれば天国でしょう。年に1、2度しか行かない病院でさえ、行くと分かると狂喜し先頭を切ってぐんぐん引っ張ります。こうした店が成功する秘訣は犬の満足度を上げることで、犬を溺愛する飼い主にとって犬の喜ぶ姿に勝るものはありません。前日と翌日には体調を確認する電話がありアレルギーなどを確認し、シャンプー中の様子を細かく記録される人間以上の手厚さです。アンケートに答えると犬が喜びそうなおもちゃがもらえ、次回以降の魅力的なプロモーション価格が提示されるなど、この業界の競争の激しさを感じさせます。家畜の歴史がせいぜい1万年なのに対して、犬は3万年前から生きた道具として人間のために働き、ほとんど進化しなかった石器に対して狩の生産性を飛躍的に向上させたとされます。今も昔も犬との関係は特別なものでしょう。

15人家族が最適?

娘が英国に出かけ夫婦とラブラドールの生活に戻りました。ニュージーランドで高校の一年間を過ごしたときは電話もSNSもメールも禁じられていたので多少の寂しさもありましたが、今はいつでもつながれます。日本にいてもインターンなどで東京を離れることが多く、家に居ることも居ないこともデフォルトの付かず離れずの距離感が適当と感じます。親子に限らず人間関係は蛋白過ぎても味気なく、濃すぎても煩わしく、どちらかが優位に立とうとしたり、あるいは依存するアンバランスな関係を続けていると結局は自分を欺くことになります。人類史における祖先たちの集団の大きさについては諸説ありますが、10人から20人程度の血縁集団で暮らしていたと考えていて、このサイズの家族関係というものがDNA的には人が一番心地よく感じる距離感だと思います。その点で核家族化した現代の人間関係は濃すぎて、単身世帯の急激な増加もバランスを欠いた人間関係と言えます。時々誰もいない山に無性に行きたくなるのは、膨らんだ利己主義が社会の至るところで人間関係を滞らせているからなのかもしれません。

ファーストペンギンは幸せ?

ゴールデンウィークや夏休みの旅行広告を見かけるようになりました。最も印象深い旅行はサラリーマンを辞めた5年前に2週間ほど滞在したペナンです。建築雑誌に載った古いショップハウスを改装したゲストハウスを見たい衝動で出かけ、気に入った施設を見つければ予定を変更し毎晩宿を変える旅行でした。朝起きてからその日の予定を考えホテルの人にグラブを呼んでもらい出かける行きあたりばったりは旅の醍醐味かもしれません。良いホテルに泊まったとか、インスタ映えする定番の観光コースのようなステレオタイプの旅行は印象に残りません。人間の脳は予定調和を退屈と感じ記憶を消してしまうのでしょう。第二の人生を予定調和に過ごすことも避けたいところで、朝は犬と散歩をしてコーヒーを飲みながら新聞でも読み、午後は昼寝や読書といったタイムプレッシャーのない生活は悪夢かもしれません。決まった時間に起きいつもの電車で同じ面子のオフィスに行く生活が永久に続くようなものです。一方、いわゆるファーストペンギン的な冒険家遺伝子を持つ人は2割とされ、8割は世間並の生活を送る宿命なのかもしれません。

人間関係は言葉の交換?

ロックダウンした英国から昨年暮に一時帰国した娘が渡英することになり、昨日は羽田空港に送りました。昨年夏には閉店していた空港内の飲食店も開き徐々に賑わいを取り戻しつつあります。英国の大学の授業は今もオンラインで行われ、現地でないとできない用事は寮を退出して9月以降に住む家を探すことぐらいです。現地なら先生と対面で話せるメリットはありますが、娘の世代がフルタイムで留学する最後の学生になるのかもしれません。打ち合わせやセミナーがZOOMに置き換えられて久しいですがそのメリットを考えればセキュリティ以外に目立った不満は聞かれず、大学の授業の多くはオンラインで事足りるのでしょう。われわれがこれまで人間関係だと思ってきたものは単なる言葉の交換に過ぎないのかもしれません。悩みの大半は人間関係とも言われますが、心の栄養になるような人間関係を保つことは難しく、親しい間柄であっても有益な面と負の面が混在しており複雑な人間関係を抱える人ほどテロメアが短くなる傾向が知られます。コロナ禍のメリットは体に悪い人間関係を見直すことだったのかもしれません。

曖昧になる嘘の境界

4月1日に気の利いた嘘をつくという習慣はすっかりすたれた印象です。ボルツワーゲンことフォルクスワーゲンのアメリカ法人が法人名変更の虚偽説明をした一件は洒落で済みません。嘘のセンスがいまいちでマーケティング能力の無さを晒した上に日にちを間違え株価まで乱高下したとあっては事態は深刻でリスク管理能力が疑われます。ホンダが公開した「スーパーカブ製造方法」も苦笑すべき内容でした。笑いのセンスが後退した反面世論操作のための嘘は大規模かつ巧妙になったと思います。嘘の中には相手のことを思った許されるべきものもありますが、多くの嘘は自分の利益のためにつかれます。誇張や印象操作、サブリミナルなどマーケティングテクニックや交渉術の進化は嘘の境界を曖昧にすることで罪悪感をなくし嘘が巧妙化される社会を作っています。さらにはファクトチェックを語りながらプロパガンダに利用する人まで現われました。人事採用の担当者に必要なスキルは求職者の語る嘘を見抜く観察力と洞察力ですが、白昼公然と嘘が語られる現代を生きるすべての人にその能力が求められると思います。

何があっても生きて行ける

新年度が始まる桜の季節は正月や誕生日などの節目と同様に、歳を重ねることを意識します。着慣れないスーツで通勤する新社会人を見ると常に自分の鮮度を保つ必要性を感じます。ときめきや新しいチャレンジという感情によって作りだされる神経成長因子の血中濃度が高いほど寿命を延ばすことが知られます。人にエネルギーを与えるものは豪華なご褒美ではなく、ときめきを感じ挑戦を続けることだと思います。年を重ねても新しい神経細胞が生まれるので、引退など考えずにチャレンジすることが右脳の血流を活性化させ生きる力になります。しかし人生経験が長くなるほど同じパターンで生活することが心地良く感じ、新しい挑戦が面倒になり精神面から老いが始まります。ストレス反応には脅威反応とチャレンジ反応の2つがあり、前者は血管が収縮するのに対して後者はリラックスし血流量は最大で心臓血管や脳の健康状態が良好に保たれます。身体がチャレンジ反応を起こすか決定づける要素はプレッシャーに対処できるという自信の有無とされ、それは何があっても生きて行けるという覚悟と自信なのでしょう。

虚構の世界に入った自動車の楽しさ

週末に滋賀県まで往復1,000kmを運転し、寄り道をしながら半分は一般道を使いました。家族3人とラブラドールが移動するにはフィアットの1.2Lで十分です。ただ機能的に移動するわけではないので車の速さなんて気になりませんし、長距離運転の楽しさに車の大きさは関係ないと思います。持て余すほどの馬力を出す現代の高級車は日本の道ではストレスにしかなりません。自動車が楽しかったのは1980年代までだと思います。1989年に発売された日産フェアレディZの3Lツインターボエンジンの最高出力280馬力(206kW)をきっかけに1989年から2004年まで自動車の最高出力を280PSに抑える自主規制が行われました。現在では700PSを超える車も普通に公道を走りますが、無分別な馬力競争とともに自動車の楽しさは虚構の世界に入り込んだと思います。強烈な個性や独自の魅力、躍動感みなぎる楽しさならむしろ排気量の小さい車に軍配が上がります。昨今の車にワクワクしないのは、頻繁にギアチェンジして走らせる非力で軽量なホットハッチが全盛だった1980年代ほどの実在的な豊かさを感じないからでしょう。

三方よしを失った日本?

週末に行った滋賀県の近江八幡市や高島市は近江商人の本拠地として知られます。その起源は、鎌倉・南北朝時代にさかのぼると言われ西川産業の創業455年を筆頭に、小泉産業305年、髙島屋190年、伊藤忠商事・丸紅163年、日本生命保険132年と日本を代表する老舗企業も近江商人の流れをくみます。近江を治めた織田信長による安土城下の楽市楽座などの商業基盤がその繁栄に貢献したのでしょう。城下町への商業誘致を進めるために自由な営業を許した楽市楽座は、近隣の戦国大名の城下町でも導入されました。信長は通行税を徴収していた関所の撤廃など商人に恩恵のある政策を進め、これらの経済政策は豊臣秀吉にも受け継がれ近江の商業は飛躍的に発展することになります。現在の日本は消費増税で商売に懲罰を加え、総務省問題に見られるように利権に群がり既得権化する動きばかりが目立ちます。近江商人の経営哲学として知られる「売り手、買い手、世間の三方よし」、すなわち社会の幸せを願う精神は自由な商売の環境においてこそ芽生えるものでしょう。

スキルが通行手形になる時代

3月末になり花粉症はほぼ収まりました。もっとも症状の重い3月の1、2週を那覇で過ごしただけで身体への負荷は下がり花粉症は深刻な問題ではなくなります。かつては農閑期に湯治場へ行ったように、来日した欧米人に避暑地が必要だったように、リウマチなど冬場に悪化する持病を持つ人にとっては季節が逆転する南半球で過ごすと負担を減らすことができます。リタイア後にハワイで暮らす生活がひとつの憧れとなるのも、四季のある日本より身体への負担が軽いからでしょう。移動の権利を認められ航空運賃の値段が下がった現代は、体調維持のために季節を超えて地球規模で移動することは現実的なライフスタイルです。リモートワークの普及によりしばらく会社に行っていないという人も増え始め、昔のように仕事をあきらめる必要もなくなりました。場所を選ばず自由に働き自由に生きられる時代が到来する一方で、雇用関係のないギグワークなど企業は将来負債を抱える終身雇用を嫌いより低廉な労働力を探すようになるはずです。現代の通行手形は、どこにいても働けるスキルなのかもしれません。

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