静寂の理想郷


年齢を意識させる誕生日は、非情にも毎年巡ってきます。それでも普段はほとんど家にいない娘が、登山で海外にいる妻に代わり食事につき合ってくれたことは喜ぶべきでしょう。自分の内面にある本音に従い、他人の基準で生きる時間を減らし、食事を減らし、運動を増やし、執着を手放すことが当面の目標です。人生のロールモデルの一人であるカーネル・サンダースの、「錆びつくより、擦り切れる方がマシ」という言葉が好きです。究極のミニマリズムを目指して人生をシンプルにしたい一方、この年になってもお金を稼ぎたいと思うのは、身体が共鳴する「美しさへの執着」だけは燃やし続けたいからです。朝、モルゲンロートの山を見て、サウナに入り、レコードを聴く、そんな静寂の理想郷という作品を作るには原資が必要となり、そのためのオーガニックで美しい循環を作る一年でありたいものです。

廃墟に「幻」を見る力


柴崎駅前にある手紙舎のもう一軒のカフェ、手紙舎 2nd STORYに行きました。築50年以上と思しき雑居ビルの2階にあり、リノベーションの観点で見ると本店より過激です。150㎡ほどにショップとカフェがあり、段差と天井高によりショップ、客席、厨房カウンターが3つのセクションに分けられます。世界観を届けるカフェは、インスピレーションを受け、思考を整理する場所だと思います。入店する客の方から「こんにちは」と声をかけるところは、街のサードプレイスといった印象です。駅前立地ながら、ありふれた老朽化した雑居ビルは、改装されなければ廃墟に見えます。建物の歴史を感じるむき出しのコンクリート壁が、新建材の対極にある本物の迫力を場所に与えます。老朽化したビルに独特の世界観を持たせ、エッジの効いた唯一無二の空間にするのは、そこに幻影を見る力がなせる魔法なのでしょう。

団地なのに森のリゾート


カフェ巡りをする柄ではないのですが、仕事を始めるきっかけにパソコン一台をもって自宅から近いカフェを彷徨います。昨日は築50年を超える団地の低層棟を改装した手紙舎つつじヶ丘本店に行きました。週末の近隣需要が主戦場と思われますが11時の開店とともに4割ほどの席が埋まります。団地の最盛期には身の回りの品を売る商店があったと思われる一角の5、60㎡に20席ほどがあります。厨房も広くスタッフ3名は収支的には過剰に見えますが、団地の価値を高めることで賃料等が優遇されている気もします。イベントと物販の利益を、ブランド維持の店舗に投資しているのかもしれません。幸か不幸かWi-Fiがなく、仕事をせざるを得ない環境ですが、窓の外には大きなヒマラヤ杉を眺めることができ、ゆったりした音楽、ほどよい生活音の店内は、団地なのに森のリゾートにいる気になり、ついつい物思いにふけってしまいます。

神の誤算


事業は総合芸術だと思います。アートの要素が強い世界ですから、数学的マーケティングとか、ジャングリアの成功確率73%と聞いても違和感を覚えます。もちろん経営管理の基盤はサイエンスですが、そこまで緻密な計算をしているマーケティングの神様なのに、小学校低学年でも分かるアトラクションの処理能力を無視して700億を投じたことには理解が及びません。「プロ経営者」と自己プロデュースをして、その仮面がはがれる前に会社を渡り歩くジョブホッパーが、優良企業を見るも無残な姿に破壊する例も多く、自分でリスクを取るだけ森岡氏は良心的だと思います。それでも公的資金を自分の会社に出資させ、その資金を不透明な取引でファミリーに流ししたとなると話は別です。世間が熱狂する、神聖にして不可侵のカリスマという偶像にこそ、われわれは警戒を怠ってはならない気がします。

仕事にも転地療法


旧前田侯爵邸のある駒場公園内で営業する、BUNDAN COFFEE & BEERに行きました。ひと気のない日本近代文学館の1階にひっそりとたたずむ、隠れ家カフェです。「日本サウナ史」の著者でもある草彅洋平氏の個人コレクションとされる書籍が壁一面に並びますが、雑多な内容で特段テーマ性やその人柄を感じることはできません。サラリーマン時代から仕事を始めることが苦手で、仕事にも転地療法が必要だと思います。パソコン一台をもって家から離れると、やっと仕事をする気になるのですが、フリーWi-Fiが災いしてAIとのチャットを始めてしまいます。この店を目的に来ない限りたどり着かないロケーションにも関わらず、9時半の開店からしばらくすると大半の席が埋まります。結局目的の仕事ははかどらなかったのですが、全身の力が抜けていくような静寂とある種の懐かしさの漂う空間に身を置くと、様々なインスピレーションを受けることは確かです。

美容効果ナンバーワン


西麻布のサウナ「アダムアンドイブ」に行きました。サウナ愛好家の間で聖地とされる老舗の一つです。カラフルで特異な形状をした外観とは裏腹に、内部はこぢんまりとしており自分の店といった愛着が持てそうです。場所柄入れ墨を禁じていないため、全身に入った人を見かけることはこの店ならではです。浴槽にサウナパンツをはいて入ることや、館内着がガウンなのもこの店の特徴で、昭和の高級サウナの面影を残します。110℃近い高温サウナと、よもぎ蒸しのウェットサウナがあるのですが、何と言ってもこの店のアカスリは自分基準では日本一だと思います。微妙な角度をつけて強めにこすられる快感は、この店を卓越した存在にします。アカスリとオイルマッサージ、入浴料で1万5千円ですが、世間のスパと呼ばれるものにおける美容効果のコスパはナンバーワンだと感じます。

身体は元に戻る


20年ぶりぐらいに胃カメラの検査を受けました。昔から胃が弱く、半世紀ほど前に飲んだ胃カメラは、太い電源コードぐらいあり大変な思いをしました。直近で飲んだ胃カメラは完全に熟睡状態で何の苦痛もありませんでしたが、昨日は多少喉の違和感はあるものの、それほどつらいものではなくすぐに終わりました。鮮明な胃のカラー映像を見ると、素人目にも問題はなさそうです。昨年は5年ほど悩まされ続けた腰痛を達人のストレッチにより克服したので、今年のターゲットは30年来続く胃の不調です。胃の不調を30年も放置してきたのは、何度か受けた胃カメラでは問題がなく、食べ過ぎたときに決まって胃の調子が悪くなるので、むしろ食べ過ぎを警告してくれて好都合に思えたからです。一度は0.2まで低下した視力も福島の山中で生活すると1.5に戻り、歳を重ねてからも人間の身体は元に戻ると思います。

探求したいものとだけ暮らす


先日のソウル行きはLCCのピーチを使ったため、荷物の7kg制限を受けます。パソコンとその電源だけで結構な重さになり、シェイバーやモバイルバッテリーを含めると、夏山縦走なみに持ち物を絞っても7.8kgになります。パソコン以外の重量物を上着のポケットにしまうことで何とか重量制限をクリアしますが、実際には羽田でも仁川でも荷物を計量されることはありませんでした。旅は身軽で行くことで状況変化に適応でき、それは人生も同じだと思います。人生の後半に入り、長い旅を続けるには荷物は軽い方がよいと感じます。企業組織を離れ、社会的地位、見栄、様々な執着、気の進まない人間関係など、背負ってきた重い荷物を降ろす解放感こそが第二の人生の醍醐味かもしれません。誘惑の雑音を断ち切り、日々小食で身体を動かし、自分の探求したいものとだけ暮らす日々こそが贅沢のような気がします。

災害復旧の先進国


31年前の大震災の日も、地下鉄サリン事件の日も、その日どこで何をしていて、どんな光景を目にして何を思ったのかを、はっきりと記憶しています。とくに阪神・淡路大震災の日は松江に行った帰路で、神戸に泊まるか奈良に泊まるか迷った末、奈良ホテルに泊まったことに幸運を感じます。地震で目が覚め高い天井の木製の壁がゆがむのを見ました。一部のガラスが割れ、ダイニングで朝食をしているときに余震があり、女性スタッフが悲鳴を上げて逃げます。常に災害に直面する日本は、災害復旧の先進国でもあると思います。地震のあと、あらゆるライフラインを人知れず支える多くの人の努力によって、われわれは不自由のない日常を迅速に取り戻すことができることは忘れてはならないのでしょう。福島原発のような巨大災害に限らず、日々の降雪に対しても夜を徹して働く人への感謝を常に持ちたいものです。

地域の記憶を残す


福島県玉川村にある観光・体験交流施設「森の駅yodge(ヨッジ)」に宿泊しました。1910年に四辻分教場として設立された旧四辻分校を5年前にリノベーションした施設です。オフシーズンの平日とは言え、税サ込5,400円には地元和牛のハンバーグコース5品、バウムクーヘンづくり体験と朝食が含まれ、実質宿泊費は無料です。宿泊客は他になくスタッフは3名いますので、自治体の観光促進キャンペーンの補助があったとしても大胆な価格です。5年間の指定管理は今年更新されるようですが、村の議会を通す必要のある委託料は、それほど大きな金額にはならないはずです。公共施設にありがちな、ハード先行で運営がそれに追いつかないこともなく、料理を含めた宿泊施設としての運営はプロの仕事です。福島空港を持つ玉川村だけに、空港マネーで整備された豪華施設は、地域の記憶を残す取り組みとしても必見かもしれません。

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