世界情勢が不安定化するなか、米国経済をけん引してきたGAFAの大量レイオフが伝えられ、欧州諸国ではインフレ率が過去最高になります。長年インフレと無縁だった日本でも7年ぶりにインフレターゲットを超えますが、賃金は上がらないままです。加えてコロナ禍の大型財政支援は雇用を守る反面、惰性的な経営を温存します。増税懸念など、われわれが明るい未来を描けない理由は、従来の発想に囚われているからだと思います。世界で最初に超高齢社会を迎え、今後80年ほどかけて、明治維新による急激な発展以前の人口に戻っていく日本は、世界に先んじて新しい生き方を示す必要がありそうです。不安定な世相は、お金に縛られる人生から離れるチャンスを与えてくれたように感じます。お金が支配する外部世界に心を奪われ、自ら落としてきた幸せの感度を取り戻す時代が到来したのかもしれません。
お知らせ
生活の知恵が詰まった昔の暮らし
地下にある自宅の浴室は、在来工法による檜風呂です。唯一贅沢をした檜風呂にはメリットが多く、お湯が柔らかく、リラックスできる感覚があります。保温性が高く翌日入っても冷たくありません。意外なのはお湯が汚れないことです。数日間お湯を替えずに入り続けてもユニットバスの浴槽と違い、見た目も匂いも劣化が見られないことです。雑菌は増えているのでしょうが、木の浴槽にはお湯を浄化する力があるようです。一方でデメリットは、木材が水を吸うと膨張し、乾燥すると収縮する性質から割れ目が生じ、内部の腐敗やカビが増殖する可能性があることです。しかし2年半使った印象では神経質になる必要はなさそうです。伝統的な木材の風呂が偉大なら、普段食べているぬか漬けも偉大で、先祖が蓄積して来た生活の知恵が詰まった昔の暮らしを、現代人は取り入れるべきだと思います。
暮らしを豊かにする地方都市
先日白河に行った折、関山(せきさん618.5m)に登りました。登山口から山頂までの累積標高差は270mほどしかありませんが、中心部からわずか数kmの市街地に山があることは地方都市の魅力です。旅館の近くには2,000m級の山が控えていたこともあり、毎日のように白河に行っていたのにこの里山に登ったのは初めてです。千年以上に渡り奥州の玄関口として要衝の地であった白河には、今も至る所に歴史が息づきます。山頂には730年(天平2年)に聖武天皇の勅願寺として開かれた古刹、成就山光明院満願寺があり、撞くことのできる銅鐘は1664年(寛文4年)に鋳造された国の重要美術品です。白河の関を訪れたあとに、松尾芭蕉が登ったとされる山頂からは、那須連峰や甲子連山を望むことができます。自然や歴史を身近に感じることができる地方都市は、日々の暮らしを豊かにしてくれると感じます。
信頼するものこそ疑わしい
取引先の地方銀行に行くと先日不快な思いをして再発行したばかりのカードが、あろうことかATMで使えません。窓口に行くと、例によって「再発行するしかないですね~」との対応です。次に出て来た上席者は、いかにも窓際族的な前回とは違い、今度はまともな対応です。それでも結論は電磁的な影響を受けたぐらいしか考えられないとの見解です。考えられる可能性はカードの破損、暗証番号の思い違い、ATMの故障ですが、結局小一時間調べても異常は見当たらず、再発行することになり最後にもう一度ATMを試しました。先程とは違う金額を入力すると今度は正常に作動し、問題の「176千円」を入れるとまたエラーがでます。「176,000円」なら正常作動するが「176千円」はエラーが出るというATMのバグを期せずして発見することになりました。銀行で潰した一時間があながち無駄ではないのは、われわれが最も信頼するものこそ疑わしいという教訓を得たからです。
無邪気に憧れた自動車の時代
福島への道すがら、道路わきに放置されているアルファロメオ・ジュリアがいつも気になります。手放しで自動車を追い求め上を向いて生きて行けた、「坂の上の雲」的な時代を思い起こします。新車で買える現行車両の中からこれに似た感覚を求めるなら、商用車のホンダ N-VANでしょう。N-VANが魅力的なのはごく個人的な感覚ですが、免許を取った頃に発売された初代シティをどこか彷彿とさせるからです。初代シティは文房具のように削ぎ落とされた潔さを、チープシックに乗りこなすエポックメイキングな車でした。一方で内燃機関に将来を見出せない時代に入ると、GM的な計画的陳腐化により正常進化を遂げた現代の車は、肥大化したおもちゃのようで心惹かれることはありません。ルノー5を思わせるターボやカブリオレ、商用バンのシティプロまで派生させた初代シティの末裔とも言えるN-VANには、無邪気に憧れることができた自動車の時代を感じます。
建築嫌いの建築好き
那須のオートキャンプ場に併設されたサウナを見学させてもらいました。外観はシンプルな三角形状ながら、内側はドラマチックです。ドアを開けると前室があり、その奥にあるサウナ室は狭いはずなのですが、低いくぐり戸を抜けると、前室の頭上が活用され、階段状に空間が上方に伸び、4人が無理なく入れる広さに驚かされます。最上段は高い位置にあるために、高温浴が期待できそうです。建築が人を感動させる場合、人それぞれに勘所が違いますが、空間処理の巧みさ、具体的には狭い空間を効果的に活用しているケースはその本領が発揮されていると感じます。デザインで感動した施設に、アメリカの海岸線に埋もれるように作られた、人工物を見せないリゾートホテルがあります。建築のデザインは好きですが、構造物が主張するのではなくあくまでも土地が主であって、人は自然へのインパクトを最小化してそこに溶け込むべきだと思います。
昭和的贅沢さ
昨夜は白河高原カントリークラブに宿泊しました。甲子高原フジヤホテル近隣の宿泊施設には概ね泊まっていますが、なぜか最も近いゴルフ場とは縁がありませんでした。夜通し入れる温泉や贅沢に使えるタオル、造形から雰囲気まで、われわれ世代がDNAレベルまで刷り込まれた昭和的贅沢さの空気感をリーズナブルな価格で今に伝えます。時代遅れと切り捨てることができないのは、昭和のラグジュアリーの頂点を極めた80年代の匂いを残す施設が、本音に近い魔力を放つからでしょう。そのためか人出の少ない時期でもいつも駐車場は満車状態ですが、問題は、熱烈な信者である団塊の世代が、2025年問題により後期高齢者に入ることです。職場ゴルフ全盛時代のコアカスタマーが市場から退出したとき、どこか愁いを含む懐かしさという価値を、次の世代が継承するのかは微妙です。しかし、消え去ることのない普遍性を秘めている気もします。
今の季節こそ戸外に
各地から雪の便りを聞く季節になるとワクワクします。燃えるような紅葉の季節が足早に立ち去ると、静寂に包まれる冬がやって来ます。四季の巡る日本ほど山好きにとって有難い国はありません。新雪の積もったトレイルは幸せな散歩道に変わり、転倒しても怪我のない雪の季節なら、普段は慎重に下る山道を思う存分に駆け降りることができます。一方で、暖かさに幸せを感じる季節は、快適な寝床を抜け出し、さらに寒い屋外に出るのが億劫になります。運動に限らず勉強でも仕事でも取りかかる時が一番面倒で、運動をするための最良の方法は運動をすること、という矛盾が運動習慣を挫折させます。面倒でも運動を始めると心拍数が上がり、やがて高揚し楽しくなります。新しいチャレンジが億劫になると、人は精神面から老い始めると言われますが、体が委縮しがちな今の季節こそ、積極的に戸外に出るべきなのでしょう。
一番輝いていた80年代
犬を飼う人に心疾患が少ない理由は、犬を撫でることで人と犬の双方で血中オキシトシン濃度が高まるからとされます。猫でも同様の効果が見られますがより強力なのは犬で、それは犬との暮らしが3万6千年に及ぶからでしょう。さらに規則的に散歩をするので、犬こそ最強のセラピストです。ラブラドールとの散歩道は、寂しく蛍光灯の灯るような住宅街を避け、なるべく明るい街並みや花が咲き誇り生命力に溢れ、運気の高まりそうな場所を選びます。とくに好きなのが大きな樹木がある場所と古い車の置かれる所です。1980年代の車が停まる場所は自分にとってのパワースポットで、それは昔の記憶がよみがえるからだと思います。1970年代の車が憧れの対象なら、80年代は欲望の対象です。最近の車に全く興味を覚えないのは、豊かさを目指すことが肯定される1980年代の自動車が、今でも一番輝いて見えるからでしょう。
ストーリーとしての競争戦略を地で行く
星野リゾートの星野佳路氏の講演を聞きました。概して大企業ほど企業経営者の話は予定調和で退屈なものですが、飽きさせず、なるほどと膝を打ちたくなり、100枚以上のスライドを1時間ちょうどで切り上げるあたりは、希代のエンターテイナーです。戦略のハイライトは「独自の姿への3つのステップ」にあります。最初のステップは生産性のフロンティアと呼ばれるもので、青森屋で毎日演奏される津軽三味線やトマムの雲海テラスのように、スタートラインに着くための必要条件です。二番目のトレードオフを伴う独自の活動はフラットな組織など、競合相手に犠牲を強いるトレードオフにより参入障壁を築きます。最後の活動間のフィットは、二番目の要素であるフラットな組織、運営特化、サービスチーム、ブランディング、日本旅館メソッドといった活動をつなげるもので、その巧さはストーリーとしての競争戦略を地で行くようです。