
富裕層の安住の地であったドバイが戦場となり、人々が逃げ出したとされます。どこに住んでもリスクはあり、花粉症の時期を除き、住み慣れた日本を離れるメリットはない気がします。ベトナムなどで普及するgrabの便利さは、リープフロッグ現象の恩恵を感じ、規制が厳しく新陳代謝の進まない日本にいると閉塞感を覚えます。他方で日本の非効率、高コストモデルは高齢社会との一定の整合性もあります。日本に戻り歩道を歩くとき、「すみません」という声が聞こえて自転車が抜いて行きますが、ダナンなら歩道を乱暴に走るバイクにクラクションを鳴らされます。自分が青の横断歩道を渡るときでさえ、殺到する車やバイクに目を光らせ、逆走車にも警戒をする必要がありますが、日本なら自動車は横断歩道を譲ってくれます。世界最高水準の治安や医療、デフレに鍛えられた物価など、日本が最高だと思うのは歳を重ねたせいばかりではない気がします。
木々の成長とともに完成に近づく



ダナンで印象に残ったカフェは、ジェフリー・バワ的なトロピカルモダン建築です。Cuckoo House Caféと呼ばれるカフェ兼住宅は、家族4人が暮らす住居とカフェを一体化した、いわばショップハウスの現代的解釈で、2018年に完成しました。1階部分をカフェと庭とし、その上に3つの台形型居住ブロックをテラスでつなぐ構造を持ち、地元の焼成レンガを用いた独特の建築美で知られます。バッファースペースと呼ばれるテラス・中庭・吹き抜けなどの半屋外空間で各機能を接続することにより、風や光を通しながら屋内外の境界をあいまいにし、プライベート性と開放感を両立させます。実際に訪れると、竣工時の写真を見たときの開放的な印象とあまりに違うことに驚かされます。壁ではなく植栽により階層的な配置を仕切る設計は、熱帯特有の強い光を柔らかく受け止め、竣工から8年が経ち、木々の成長とともに完成形に近づいているようです。
ノイズの多い株主総会

すかいらーくのM&A戦略に関心があり株主総会に行きました。一部株主による不規則発言が例年問題視されてきたようで、多くのスタッフを動員した厳戒態勢が取られます。近くにいた70代と思しき男性は、発言からは労働組合に関わっていたようで、社会のため、会社のためなどと言いながら飲み終えたペットボトルをスタッフに片付けさせるなど自分の権利にしか興味がないようで、近くにいた株主と開会前から小競り合いを起こしスタッフによって丁重に会場から連れ出されました。自分を大切に扱ってくれる株主総会は、この種の人には居心地が良いのでしょう。結局議事は順調に進みましたが、他方で株主の質問は株主優待や、店舗での些細な改善要求など、最高意思決定機関とは程遠い素人意見に終始した印象です。当社のような優待人気が高い企業ほどノイズが増え、株主質問権の確保と議事運営の合理化にもう一段の改善が必要と感じます。
本物より良くできた代用品

為替の影響により、日本人が気軽に海外に行ける国は減少しました。かつては日本人であふれたハワイなどは高嶺の花となり、おそらくもう行くことはない気がします。その代用品となりそうなのがベトナム第三の都市とされるダナンです。ホテルの屋上のプールからビーチ越に眺めるソンチャ半島の景色は、ワイキキから望むダイヤモンドヘッドに見えます。プールサイドを占めるのは欧米人で、ハワイと同じような音楽が流れ、打ち寄せる波を見ていると別にワイキキである必要を感じません。洗練された店が少ないかわりに、同水準のホテルの値段は5分の1で、人的サービスが手厚いとなると、ハワイに行く理由が見つからなくなります。車優先の交通カオスなどネガティブな面もありますが、治安が良く、どこまでも続く砂浜や日本人向きの食事など、本物より良くできた代用品に思えます。
内部充足型消費

ダナンから雨の東京に戻りましたが、花粉症の症状は出ません。ダナン初日と最終日に利用した空港近くのホテルの主人は、2週間ダナンにいてホイアンにもミーソン遺跡にも行かなかったことに驚きますが、消費のために走り回るより海岸やカフェでダナンの情緒に没入するだけで満たされる気がします。日の出と日没の頃に砂浜を素足で歩き続ける贅沢は、他の場所では味わうことができません。カフェで飲むココナッツコーヒーやアヴォガドアイスクリームも、店による違いが大きく飽きません。記号的な観光地を制覇する外部評価型消費は、行ったかどうかが問題ですが、土地の空気を吸収する内部充足型消費は、どう感じたかが重要です。カフェの隣の席に座る年配の欧米客は、スケッチを始めます。大量の写真を残すより、自分の内面を通して生まれた感情を記録することに価値がある気がします。
良いホテルの条件

ダナンの魅力は気候・自然環境の良さ、生活コストの安さ、治安の良さ、日本人向きの食事、カフェやホテルの充実、空港から近いビーチです。他方で交通のカオスは問題だと思います。どこでも道路を渡れて便利だと呑気に構えていましたが、減速しない車が観光客をはねるのを目の前で見て考えが変わりました。クレジットカードを使える場所が限られ、薬局などで値段が適当なことも気になります。他方で停電などのインフラの不安定さは感じませんでした。多くのホテルが14時チェックイン、12時チェックアウトとしていることは、毎日もしくは2日ごとに宿を代える身には助かります。宿が変わり街区が変わるだけで新鮮な気分です。直前にホテルを予約したため、目当てのホテルの安いカテゴリーの部屋が売り切れていたことも宿泊を細切れにした理由です。同じホテルに戻るケースもあり、良いホテルは「おかえり」と暖かく迎えてくれます。
見るべきカフェと良いカフェ

今夜の深夜便で避粉先のダナンから帰国します。ダナンの初夏を先取りする気候は、血流を改善し、筋肉の緊張をゆるめ、副交感神経を優位にします。日照時間が長く、光量も強いためにセロトニンやビタミンDが合成されることも健康上のメリットです。もう一つの目的はカフェの視察で、ダナンに来る前にAIがピックアップした200ほどの店舗を見ましたが、いずれのデザインも洗練され、日本のチェーン店的な凡庸さとは無縁です。ダナンのカフェが洗練されるのはフランス由来のカフェ文化を基盤にしつつ、若者起業家の激しい競争とグローバルデザインの即時流入があると思います。日本でもカフェの生き残りは最難関ですが、ダナンでは数十メートルごとにカフェがある感覚です。しかし見るべきカフェと良いカフェは異なります。求めるものは旅の風情であり、客数の少ない落ち着く店に自然と足が向かいます。
楽しみ先送り社会

ダナンに来て2週間が経ち、日越どちらの生活満足度が高いかを考えます。モータリゼーションの観点から見ると、日本で言うなら車の黎明期が過ぎ人々が自動車を求め始めた1970年頃だと思います。ダナンでは至るところに屋台があり、スモールビジネス中心の一億総活躍社会で格差が存在するのに対して、日本はサラリーマンによる一億総中流社会でした。朝5時からはビーチでアップテンポな音楽が流れエアロビクスが始まり、夕方にはビーチバレーやサッカーが盛んです。三々五々砂浜に集まり、それぞれのペースで人々が楽しむ姿を見ていると、半世紀前の日本はモノへの憧れが強かった反面、楽しみを先送りして生活を充実させる余裕がなかったと思います。南国への憧れという単なる観光客のエキゾティシズムなのか、発展途中のエネルギーを発するダナンの生活が豊かに見えてしまうのは、隣の芝生だからかもしれません。
グレーなゲリラ戦



K20革命基地地区と呼ばれるベトコンの地下活動拠点跡に行きました。ベトコンの地下壕のあったマーブルマウンテンとともに、ダナンを代表する戦跡です。小さな村に20台ほどの観光バスが押し寄せ、小学生が見学に訪れていました。この村のハイライトは民家のステップを開けて入る地下トンネルです。内部は澄んだ井戸水で満たされますが、痩せた人でないと入れない小さな入り口です。マーブルマウンテンの周辺は今も石屋さんが多いのですが、この同業者ネットワークが夜間はベトコンとして活動をしたとされます。米軍最大級の補給基地と空軍基地までわずか数百メートルの村が革命拠点であったことは、意外です。昼は南ベトナム側に協力し、夜は解放戦線として働く二重構造は、住民を苦しめたと思います。ベトナムがフランス、アメリカ、中国のいずれも退けた強さは、このグレーなゲリラ戦にあった気がします。
歩行者の注意義務
ベトナムは車優先社会ですから日本では考えられない歩行者の注意義務が生じます。歩行者優先などないに等しいとは思っていましたが、昨日目の前で起きた事故を見て考えを改めました。観光客でごった返すダナン一の繁華街であるダナン大聖堂前の大通りから、小さな路地に左折をしようとした車がほぼ減速せずに突っ込み、私の目の前を歩いていたおそらく韓国人観光客と思われる女性を1メートルほどはじき飛ばしました。日本なら救急車を呼ぶレベルで大騒ぎになりますが、運転手は車がへこんだと騒ぎ、周りの人も運転手に同情的に見えました。女性は歩きスマホをしていましたが、仮にしていなくても事故に巻き込まれた可能性があったと思います。目に見える外傷でもない限り、この程度では事故とはみなされず、歩行者は周囲に対する相応の注意を払い、自分がそこにいることをドライバーに知らせながら行動することが前提のようです。