贅沢は工夫次第


昨日乗った東九フェリーは、10年前の2月に高知竜馬マラソンに出た時も乗りました。二段ベッドは個室化が進み、ラウンジはよりプライベート感のあるブース席になり、浴室にもバージョンアップが見られます。トラックの運転手不足からモーダルシフトが進むなか、フェリーの収益は物流が中心でしょうから、華やかさはありませんが旅に豪華さは不要だと思います。人は豪華さに魅かれ、豪華客船、豪華列車に憧れますが、それは商業主義に洗脳された証かもしれません。船内の展望浴室はいつも空いていて、大海原を眺めながらの入浴は贅沢ですし、東京湾に入り穏やかな鏡のような海面に反射した月の道を見ながら、窓際席でパソコン仕事をすることも贅沢です。豪華とは付加価値を生むための方便ですが、贅沢は必ずしもお金を必要としません。山頂で飲むインスタントコーヒーと同じで、豪華ではなくても時間を贅沢に使うのは工夫次第でしょう。

用事がなくても乗りたい


石風呂調査のために3,761kmを走り、帰路は徳島から東九フェリーに乗りました。御朱印巡りの次は御船印巡りがブームとかで、昨今は女性やインバウンドも注目していると言います。船内には若い女性のグループが目立ち噂は本当のようです。全長191m、総トン数12,636tの「どうご」は速力22.4ノット(時速41.5㎞)で東京まで18時間10分で運んでくれます。4m未満の車なら運転者込みで30,910円はバリューに感じます。自走すれば高速代と燃料費で2万円しますから、宿泊代を5千円と仮定してわずか6千円で、控えめに言ってコスパ世界最強のクルーズ船の旅をしながら車ごと運んでくれます。とくに浴場が素晴らしく、起きている間はほとんど湯舟につかっていたと言っても過言ではなく、絶妙な揺れのためか無性に眠いのも、普段は短眠の自分には好都合です。オーシャンフロント独占のブース席での食事も非日常感あふれ、用事がなくても乗りたいです。

日本には知らないことがあふれている


昨日は親戚が住職を務める寺がある瀬戸内海の小島に行きました。子供の頃は毎年夏に帰省ならぬ墓参に来ており、いわば心のふるさとです。故郷を持たない東京人にとっても、先祖が眠るこの土地は魂とつながる解放の場所です。凪いだ鏡のような瀬戸内海に、小島を背景に太陽が反射する美しさは、自分の帰るべき場所のように思えます。「旅とは新しい景色を探すことではなく、新しい目を持つことだ」というマルセル・プルーストの言葉が好きですが、故郷は、自分自身をより知ることができる場所かもしれません。世界の動きと離れることでしか、大切なものは見つからない気がします。寺から車で10分ほどの山の頂上には戦時の砲台跡があり、橋でつながる別の小島には今調べている石風呂の跡まであり、日本には知らないことがあふれていると感じます。人々が旅や移動を楽しむのは、帰り着く故郷があってこそでしょう。

自動車旅行のメリット


昨年まで1個20円ほどで売られていたみかんが、今年東京ではその5倍の価格に跳ね上がり今シーズンは買っていませんでした。昨日山口県の周防大島に来ると、直売店で25個ほど入ったネットが500円と手ごろな値段でしたので購入しました。リンゴなどもみかんほどの値上がりではありませんが、それでも手が出にくくなり、自動車で旅行することの醍醐味の一つは産直で買い物ができることです。3か所の直売店で買った2、30個入りのみかんが5ネット、鹿児島で買ったサツマイモや老舗で買った和菓子など、もろもろの買い物によりN-VANの就寝スペースが侵食されています。もう一つの楽しみはローカルスーパーをのぞくことで、必ず東京ではお目にかかれない食品や菓子類があり、持ち運ぶことを考えずに躊躇なく買えることは、自動車旅行最大のメリットかもしれません。

日本人の叡智


昨日は1800年以上の歴史を有する福岡市の鳥飼八幡宮に行きました。シロアリ被害を受けた江戸時代の旧本殿を205年ぶりに建て替えたものです。古代から続く磐座信仰をイメージし、瀬戸内海の島から切り出した高さ8メートル15トンの巨石を10本立て、これは大阪城の石垣と同じ石だそうです。本殿は奈良吉野のヒノキを使った神明造ですが、何と言っても目を引くのは茅葺の壁で、茅葺の新しい可能性を感じます。次世代への技術の継承として、25年ごとに遷宮事業で吹き替える予定ですが、設計者によると25年以上は持つそうです。クリエイティブでありながら厳かなデザインは秀逸です。吹き替えた萱はまた土に還るという日本人の素晴らしい叡智を感じます。事業費3億円が高いのか安いのか分かりませんが、必要なのは建築家のブランドではなく、骨太の設計思想だと思います。

中毒性のない食事


昨日は港町にある旅館に泊まりました。昭和28年から営業しておりかつての日本家屋の懐かしさが漂います。雪の舞う寒い日には石油ストーブの暖かさがしみます。特筆すべきは食事で、夕食も1泊2食6,600円とは思えない豪華さでしたが、とくに懐かしいのは朝食です。皮をカリッと焼かれた魚も絶品ですが、味噌汁も卵焼きも漬物も懐かしく、寒い日本家屋で祖母が作った朝食を思い出します。高い宿に泊まらないのはケチだからですが、商業化以前の懐かしさに触れたいのであれば、生業的な小さな宿に泊まるに限ります。遠くまで行かなくても、派手に散財をしなくても、本当に大切なものが何かを教えてくれる宿こそ良い宿だと思います。消費の自由を謳歌し刺激を求めた日本人は、生活の節度を失い、生活の中に根づく美学さえ失ったと思います。世間ほど外食に興味がないのですが、中毒性のないこうした食事こそ日本人の体質にあっていると感じます。

二兎を追う者


タレントの小島瑠璃子氏の夫である北村功太氏の急逝は、遺書のようなものが見つかったとされサウナ業界に衝撃を与えました。経営していたHabitatは、オリエンタルランド・イノベーションズなどから1.3億ほどの資金を調達した注目スタートアップで、温浴施設向けDX事業、超高品質をうたう会員制サウナ事業を展開しています。サウナブームと新型コロナ対策により急増した高級サウナは過当競争気味ですが、業績不振と資金繰り悪化が噂され累積赤字は 3億超とも言われます。問題はDXツールの開発も、会員制サウナ事業も先行投資が必要なことで、ひとたび業績悪化が噂されれば、すべての動きが逆回転を始め連鎖的に経営難に追い込まれます。バブル経済の崩壊を経験した者なら過熱の渦中でアクセルを踏むことに躊躇しますが、投資家の残酷さは成長スピードの鈍化を許さず、意図せず二兎を追う者になった気がします。

蒸し風呂つながり


東大寺別院阿弥陀寺の石風呂を見に山口に来たついでに、蒸し風呂つながりで指宿の砂蒸し風呂に入りました。海岸に自然湧出する豊富なナトリウム塩化物泉を利用したもので、鹿児島大学医学部の調査によると神経痛・リウマチ・腰痛・五十肩・膝関節痛をはじめ数々の入浴効用が実証されているそうです。幾度とない噴火で生まれた指宿の海岸には80℃ほどの温泉が湧いており、市街地でも数メートル掘れば温泉が湧き出すと言います。一般的な砂より黒く粒子が大きいため、スコップで砂をのせてもらうとずっしりと重く、筋力の弱い人なら自分では脱出できないかもしれません。10分ほどするとじわじわと汗をかきはじめますが、砂の重みで押し付けられる背中が低温やけどになりそうなので15分ほどで出ました。子供の頃砂浜で砂に埋めてもらったのを思い出しますが、さらさらと体から落ちるので不快感もありません。

石風呂消滅の危機


快適に汗をかける石風呂がツボにはまり、この2日間で20か所を見ました。山口県の徳地を中心とした佐波川流域、大分県の緒方川流域の緒方町上自在を中心とした半径5km圏、香川県と愛媛県などに分布します。最も集積するのは緒方川流域ですが、記録が残っていただけであって現存するのは氷山の一角に過ぎないと思います。山口では石や土を重ねたドーム型の石室が中心なのに対して、大分県では地形を利用した横穴式の二段構造で下から火で暖める方式です。また愛媛には石風呂という地名が残りますが、香川ではから風呂と呼ばれます。昨日はGoogleマップを頼りに石風呂を探していて、近くを散歩していた80歳前後の女性に聞いても行ったことはないと言い、別の80歳ぐらいの男性も、庭先に石風呂があるのに入ったこともないし無関心でした。古民家が壊されることにもあせりを感じますが、忘れ去られた石風呂はその前に消滅の危機を迎えています。

イノベーションのジレンマを回避


安い宿に泊まり慣れているので多少の安さでは驚かないのですが、防府で泊まったビジネスホテルは込々4,600円なのに、大浴場が快適でバスタオルとハンドタオルが使い放題で、サウナにはハルビアのストーブが入る北欧式で、1階の中華料理屋からはルームサービスまで取れるというシティホテル並みの内容でした。老朽化に対する追加投資の目途は立っていないでしょうから手放しで喜ぶことはできませんが、長年のデフレに鍛え抜かれた日本の企業が提示する価格とクオリティに、インバウンド客が信じられないと唸るのも当然です。安易に付加価値を追求する企業より、安く良いものを提供する企業を尊敬します。ダイソーやユニクロは、海外ではブランド品として機能するほどの品質です。サイゼリアも含めた日本の企業は、イノベーションのジレンマを回避し、これからも生き残っていくのだと感じます。

Translate »