朝日新聞論説委員だった稲垣えみ子氏の「寂しい生活」を読みました。原発事故を契機に冷蔵庫、洗濯機などの家電を手放しほぼ電気を使わない生活に切り替えたと言います。断捨離の結果会社まで辞めてしまい、高級マンションから築50年のワンルームマンションに転居し、カセットコンロでご飯を炊き2日に一度の銭湯が最大の娯楽という生活には潔さを感じます。今やベストセラー作家であることを考えると、寂しい生活は一部のパラノイアだけのものではないのでしょう。エネルギー価格が上昇し政府は節電を呼びかけますが、電気を使わないという発想は新鮮です。ほぼヴィーガンとなった我が家で要冷蔵の食材は納豆、豆腐、味噌ぐらいですから冷蔵庫なしの生活も無理ではなさそうです。何かを手放すほど自由に近づき、不安もストレスも消えていきます。究極までそぎ落とす生活が魅力的なのは、稼ぐほどに執着が増え、モノが増えても幸福度は高まらず、便利になってもいつも時間が足りない原因が、物質主義的な世界観にあることに気づき始めたからでしょう。
月: 2022年3月
控えめな旅
本来であれば卒業旅行などの旅行シーズンですが、盛り上がりは控えめです。一方で「控えめな旅」という風潮も悪くないと思います。短期集中で非日常を求める豪華な旅行に対して、平穏な日常の静けさを求める旅の達人は松尾芭蕉でしょう。日々旅にして 旅を栖とす、と詠み、過ぎ去る日常に二度と還らぬ旅人を重ねました。これといったイベントもない平凡で静かな当たり前の生活に、普通の幸せを感じられる感受性こそが旅を住まいとする秘訣だと思います。船頭として舟の上で人生を過ごし、馬子として愛馬と老いていく毎日が旅である、という感性は今もって新鮮です。旅は人生を探求する手段であり、内なる旅をするために芭蕉は人生の後半に旅を始めたのでしょう。大半の人にとっての旅は最も高価な消費の対象であり、増幅された欲や執着が人を囚われの身にします。ザックひとつで自分の足で辿る荒行のような旅に憧れるのは、それが自分の内面を知る道だからでしょう。
直観を頼りに自然に暮らす
睡眠は健康を維持する上で、食事と運動、自律神経バランスと並んで重要であり、高い関心を持たれます。人はたいてい起きた時間で睡眠の可否を判断し、たっぷりと寝た日はよく寝たと判断します。一方でさわやかに目覚めた割には時計を見ると夜中のこともあり、おおよそ90分周期とされる最初のノンレム睡眠で十分な睡眠深度である徐波睡眠に至ることが重要とされます。7時間半睡眠が長寿とされ、自分の場合はこれより1サイクル少ない6時間ですが、百寿者にはショートスリーパーが多いという調査もあります。以前は小太りが長寿とされましたが、百寿者のBMIは19.2とする調査もあり世間で言われる健康常識はあてになりません。年末年始に借りたスマートウォッチで睡眠状態を測定すると、慣れない場所やサーカディアンリズムが狂う時間帯に寝た日は睡眠深度が浅い傾向が分かります。一方で睡眠の質を知るためにスマートウォッチが欲しいとは思いません。測定すれば執着が芽生え逆効果になり、何事も自分の直観を頼りに自然に暮らすことが一番だと思います。
住む場所は運命ではない
桜が咲き誇る季節になると、見事な大木のあるルートをラブラドールとの散歩に選びます。一年で一番美しく生命力を感じる芽吹きの季節は花粉症の憂鬱な季節でもあります。3月の前半を那覇で過ごしたので、本格的な花粉症シーズンはこれからですが、苦しむ期間が少なく症状も以前ほど深刻ではありません。住む場所は人生に大きな影響を与えますが、これまでは自由な住まい方はごく一部の自営業者やリタイアした人にしか許されませんでした。今年に入り東京都への人口流入が逆回転を始め、昨年同期比で人口が5万人近く減ったことは、都市に住むメリットよりデメリットの方が大きいという本音を実行に移したことの現れに見えます。人が密集する都市はストレスにさらされ炎症を引き起こしやすく、病原菌が広がり、都市の孤独は破滅を招きやすく、成功崇拝が主流になり人の心は殺伐とし、富を片寄らせ、豊かになってメタボリスクが高まりガンなどの文明病も多発します。住む場所は避けられない運命ではなくなり、都市が再評価を受けるのはこれからでしょう。
本能を尊ばない現代人
先月惜しくも亡くなったリュック・モンタニエ氏の著書を読みました。HIVウイルスを発見しノーベル賞を受賞した科学者でありながら、人間は物事の本質を認識することができないとする不可知論者であったことは少し意外です。科学技術が発展するに従い人は科学的に証明されたことだけを信じるようになり、自分の感性で捉えたものを軽視するようになりました。しかし、偉業を成し遂げる人物は常に謙虚であり思考領域が広いのでしょう。食事を減らせばお腹もすかず、体はむしろタフになるといった、常識と真逆のことが自分の体で起こると、現代科学を軽信しそこに思考の基盤を置くことは危険だと思います。昨日はネットフリックスでボーイングの新鋭機737MAXの連続墜落事故のドキュメンタリーを見ました。ボーイングがマクドネル・ダグラスと合併した頃から社内に蔓延し始めた株価至上主義が事故の背景にあるようです。人はお金や権力、物欲と自我の肥大化により直感を鈍らせ、どこからともなく感じる本能を尊ぶことができなくなるのでしょう。
視野を狭める世間常識
残り物には福があるということわざは、捨てるはずの食材にも言えます。我が家では酒粕を味噌汁に入れますが、こくが出てタンパク質とビタミンB2が豊富に含まれます。おからもよく使いますが、食物繊維が豊富で腸を健康に保ち、徐波睡眠の時間が延びて良質な睡眠が得られます。熟成が進む黒バナナは酵素が活性化しショ糖が分解されGI値が下がり太りにくく、トリプトファンやヒスチジンといったアミノ酸はストレス緩和に効果的です。これらはいずれも価格が安く、熟成した黒バナナはスーパーなどで見切り販売される割には甘味が増し最高のデザートになります。頻繁に使う大豆ミートは保存がきいて安価な上に、肉料理と同等以上に美味しく健康的です。ノーベル医学賞を受賞したリュック・モンタニエ博士は、新鮮な果物や野菜から抗酸化物質を摂り酸化ストレスを抑えることが免疫力を高め薬より重要と言います。過食が病気の原因になるように、お金を使うほど得るものが少なく、物を買うほど楽しさが目減りするのは、世間常識に従うことで視野が狭くなり本質を見失うからでしょう。
予言書は10年以上昔の本
侵攻から1か月が過ぎ、世界二位の軍事大国のはずのロシア軍の弱さと、西側に支援されたウクライナの善戦が目立ちます。プーチンを狂気に駆り立てた背景を推し量ることは困難ですが、終戦前後に日本に対してソ連が行った残虐性を忘れることはできません。他方で大量破壊兵器を持つとの触れ込みでイラクに侵攻したアメリカにも善良さはありません。不透明な時代の潮流をつかむ上で参考になるのは、10年以上昔に書かれた本だと思います。一般には最新の本が好まれる傾向にありますが、昔から今の状況を正確に伝えている、予言書とも言うべき書籍の著者の警告は参考になります。見極めのポイントは、特定の背景を持たず、金に無縁そうな地味な学者や研究者で、独自の情報チャネルや一次情報にアクセスしうる人です。人は未来が開けると安心しますが、何事も妄信せずに、そこから先は自分で探求するしかないと思います。生きる意味と目的を探求するDNAは刷り込まれた人の本能であり、手放せば真理に到達することもないのでしょう。
物珍しさより本音
連休中の観光地は賑わったようで、普段の生活を取り戻せることは希望につながります。国境も徐々に開かれ始めましたが、何が起きるか分からない時代に、国内と同じ感覚で行き来することは難しくなりそうです。花粉症の季節に二度ハノイに行き、確かに刺激的ですが、快適に滞在をするならやはり国内に限ると思います。物価が安いとは言え、もはやデフレ日本とそう変わらず、食べ物も概して日本の方が健康的です。海外旅行が億劫に感じられるのは面倒になったからばかりではなく、物珍しさより本音に近い満足を求める心境変化がある気がします。視覚情報を確認するためだけの観光地には興味が起きず、旅行で重視するのは一人だけになれて何かを感じられる静かな場所です。インスタなどで拡散され人が集まる場所を避け、観光客が知らない二級史跡やパワースポットと思しき場所をGoogleマップ頼りに探します。その場所と自分が直観的につながれ、何かを訴えかけて来るような所で時間を過ごすことこそ、観光の醍醐味だと思います。
不調は警告灯
那覇に滞在している間に刺激物と過食を控えた結果、長年患っていた逆流性食道炎は気にならないレベルに改善しました。不調は身体のバランスが崩れていることを告げてくれます。一部の医師によって血液浄化説が説かれるガンにしても、風邪にしても、肥満にしても同様で、崩れたバランスを元に戻せば治ると思います。この3週間ほどカフェイン抜きの生活をしたので、おそらく頻繁に飲んでいた紅茶が犯人ではないかと疑っています。原因が分かってしまえばむしろ不調は身体の状態を示す警告灯として機能し、いつでも健康に戻せる自信になります。山に行ったあとに持病だった腰痛が再発することはありますが、原因が分かっているので、下山後に適切なメンテナンスをすれば治ります。風邪も同様で、のどの痛みを感じた段階でジンジャーティーを飲んで何も食べずに寝れば一晩で治ります。こうした知恵は以前の日本では多くの人が実践していましたが、化学薬品を常用するようになり免疫力と思考力が低下した結果、医療ビジネスから抜け出せなくなったのでしょう。
働く休暇
那覇に3週間ほど滞在して、航空券、ホテル、2度借りたレンタカー、食費を含めて総支出は8万円ほどでした。高級ホテルなら一晩で使う金額ですが、見たかった沖縄本島南部、中部の史跡の大半やホテルを見ました。東京の自宅にいてもこれに近い生活費を支出することを考えると、ノマド的な暮らしが普及すると、産業分類上は旅行代金とも住宅コストとも言えない新たな市場が成立することを実感します。花粉症による不快さと生産性の低下が防げることを考慮するなら、これらは生活必需品の一種だと思います。設備と蔵書の充実した沖縄県立図書館なら、東京では予約者が多くて借りられない人気本をまとめて読むことができます。労働生産性が低いとされる日本固有の短期勝負の休暇という概念は、より長期の働く休暇にやがて変わっていくのでしょう。当たり前だと思っていた働き方から距離をおくと、働く意味や生きる意味について考えます。早くも泳げる砂浜で強い日差しを受けていると、何もなくても幸せに生きていけるような気がします。