3月11日は多くの日本人にとって10年という時間の隔たりを意識する日です。国内観測史上最大の地震があった日のことは日記を見返さなくても当時の感情を鮮明に思い出せます。10年という時間は大型犬なら一生涯の時間に相当し、人体も大きく変わり当時は幼児だった娘は今や自分と変わらない身長です。社会常識も10年前とは大きく変わり、10年後にはなくなっている職業もあるでしょう。人類も進化し過去50年で平均余命は10年ごとに2割伸びています。一方でガン細胞がCTやMRIで発見できるようになるまでには短くても10年かかり、糖尿病の合併症も10年以上の歳月をかけてゆっくりと静かに体を蝕みます。われわれが平均寿命の延びを実感できないのは食習慣や飲酒、ストレス、運動不足がプラス面を帳消しにするからで、この10年でうつはすさまじい勢いで増えています。投資利回りを複利で10年間回すなら資産は大きく増え、毎日3時間10年かけて10,000時間を費やすなら誰でもプロになれます。この10年で転職しサラリーマンを辞め、旅館を買いと人生は劇的に変わりましたが問題なのは成長できたかどうかです。
月: 2021年3月
物があふれる時代のフロンティア
ピークに達する花粉症を避けて半袖が心地よい那覇に来ました。仕事で那覇に来ていた頃は大半が日帰りでしたが、今にして思えば当時から実用化していた動きの不自然なテレビ会議で十分だったのでしょう。この一年は疑うことのなかった移動の意味を考える年になりました。搭乗率3割程の機内を見ると不要不急の最たる移動が旅行であることが分かります。旅行に対して億劫なのは、お金もかからず爽快で気持ち良く運動できる山で過ごす時間に比べて割に合わないからだと思います。それでも霧消する贅沢な時間を消費する虚しさを人々が受け入れるのは、物があふれる時代の最後のフロンティアが空間と時間だからでしょう。その両者が刺激的にシンクロするのが旅の醍醐味であり、エキゾチックな場所性が身体感覚に結びつくなら旅行はレジャーの王様としてバーチャル化の動きに対抗できるはずです。視覚化された情緒やステレオタイプの豪華さを超えた旅の魅力の最後の薄皮一枚を解き明かした人が、再び国境が開かれインバウンドの熱狂が戻るときの勝者になるのでしょう。
分散化された信頼が変える旅と外食
根拠なき1都3県の緊急事態宣言の延長は権威が薄らぎ逆効果のような気もします。ワクチン接種の進む海外では旅行の予約を入れる人も増えていると聞きますが、日本でも旅行や外食を封じられていた反動消費は期待できるでしょう。外食や旅行に出て過ごす贅沢な時間と空間を市場は求めますが、贅沢の意味は昨今変わり始めていると思います。商業化されたステレオタイプの豪華さの欺瞞を人々は見抜き、産業化以前の贅沢を求める動きも見られます。先週農業インターンに行った娘によると近所の農家が料理を持ち寄る食事は贅沢だと言います。カリフォルニア州では家庭料理を販売するミールシェアが合法化され、見知らぬ家庭で食事を楽しむことができるのは一種の先祖返りでしょう。一方、日本では名店による食品偽装が問題になり、一流ホテルがその信用を失墜させたことは記憶に新しいところです。これまでは法律や企業のブランドが信用を担保しましたが、食べログやトリップアドバイザーのような分散化された信頼により外食や旅の姿は大きく変化していくと思います。
自分の身体をセンサーに生きる
日本を代表する経営者を一人選ぶならトヨタ自動車三代目にして52歳で社長に就任した豊田章男氏でしょう。社長就任時はリーマンショックで71年ぶりの営業赤字に転落し2010年の世界規模のリコール問題、翌年の東日本大震災とタイ洪水被害、歴史的な円高などで危機的状況にあったトヨタを2013年度には世界販売台数1,000万台超えで業績をV字回復させました。その非凡さは経営手腕だけでなく、日本のボイコットにより出場できなかったモスクワオリンピックではフィールドホッケー選手として日本代表に選出された文武両道にあります。活躍する経営者にトップアスリートが多いのは、直感的な判断と瞬発力が培われるからだと思います。レーシングドライバーとして運転技術に精通しテストドライバーとして開発に関わる異色の存在です。印象深いのは、自分の身体のセンサーとしての感度を維持するために普段乗る車はNVHを伝えない高級車ではなくコンパクトカーと言う点です。身体感覚を基準に車を評価する姿勢が世界最大の自動車会社になれた理由の一つだと思います。戻るべきデフォルトを決め、空腹を基準に食欲を考え、過不足ない生活を基準に金銭欲を考えるなら、欲と執着に振り回されることなく自分らしい等身大の生活を送れるのでしょう。
人力移動の時代
昨日は世田谷区内でフォトロゲイニングをしました。正式な競技ではなく20kmを4時間ほどかけて歩いただけですが、大半の都市の見どころを回るのに徒歩かゆるいランニングは移動手段として最適です。歩くスピードという自分の尺度で街のスケール感をつかむことができ、普段から暮らす街なのに自動車のスピードでは気づかない発見が新鮮です。入ったことのない店に入る体験は遠くの観光地に来たのと同じ感覚です。これまでは情報流通量が増えるほど人の移動が増える現象が見られましたが、ポストコロナの生活は移動を避け始めています。ZOOMがあれば人と会うために移動する必要はなく、ウーバーで食事が届くなら飲食店から足が遠のき、バーチャル見学や観光も浸透し始めています。他方で脳科学や神経生物学の知見は移動に意味を与えてくれるかもしれません。観光の要素を持つフォトロゲイニングが優れる点は、運動をすることで脳に入る刺激がニューロンの結合を強め電気信号に変換された情報をより吸収できる点にあります。江戸に至る時代がそうであったように人力移動こそが次の時代の観光を成立させるのかもしれません。
フォトジェニックな生活
最後の既得権益とも言える大手メディアの苦境が伝えられます。電波利権はインターネットにより侵食され番組編成で大物タレントを外す動きも見られます。ネットフリックスやYou Tubeで見たい映像をいつでも見られる時代にテレビを見る理由などありません。不安を煽り過ぎて経済を破壊しクライアントからも見捨てられ始めたのでしょう。一方のSNSもフェイクであることには変わらず距離を置く動きも見られます。都合よく切り取られたフォトジェニックな生活が、見た人を不幸にする点ではマスメディアと同じなのかもしれません。もはや死語となったインスタ映えですが、捏造された写真に人は飽き始め、投稿する本人もおしゃれな生活を演じることに息苦しさを感じるはずです。生活水準を上げることに目が行くとお金のことばかり考えるようになります。収入が上がれば生活や交遊関係が派手になり、浪費生活を維持するためにやりたくない仕事を続けることになります。結果的に家族もお金に縛られ毎年ハワイ的な生活から抜け出すのが難しくなります。お金に縛られることなく自分が大切にしたいことと向き合うことが人生を豊かにするのでしょう。
物理法則の最終審判
先月ロサンゼルス近郊でタイガー・ウッズが単独事故を起こし重傷を負ったニュースに衝撃が走りました。道路から大きく外れた見慣れない車の映像も話題を呼びましたが、現場は緩い下り坂のカーブで、45マイル制限の道路を7、80マイルで走っていたとされます。樹木に衝突し横転した派手な事故にタイガーらしさを感じた人もいるでしょう。ポルシェカレラGT、ベンツSLRマクラーレン、AMG S65などいずれも600馬力を超える高性能車を所有するタイガーですからその運転スタイルは容易に想像がつき、同じ感覚で運転をされたなら大会スポンサーであるヒュンダイのジェネシスGV80にとっては迷惑な話です。タイガー自身は事故当時の記憶がないと話しており、ブレーキ痕がないことから居眠り運転も疑われます。タイガーは過去にも事故を起こしたことがあり、安全が守られるゴルフの試合とは異なり、自動車の運転というある種のエクストリームスポーツは物理法則の最終審判を受けることを学ばなくてはならないのかもしれません。
ジャンキーの境界
福島で旅館をしている頃は朝食に業務スーパーの天然酵母パンを出していて、厚切りのトーストをオリーブオイルで食べるのが好きです。今でもこの食パンが無性に食べたくなり近所の業務スーパーに時々行きますが、同店のベルギー産トリュフチョコレートとともにこれらは安全かつ安価な合法ドラッグだと思います。特定成分のみを集める精製度が高いほど中毒性が強く、小麦と糖質を摂取して血糖値が上がると脳内でドーパミンが分泌され美味しいと感じ幸福感に浸れます。人を夢中にさせるエクスタシー経済は年間4兆ドルと試算され、中毒症状がエスカレートすれば収入のかなりの割合を使い、身体と生活を破滅に導く人も出ます。中毒になる理由は夢見る効果がやがて逓減してしまい摂取量を上げないと満足できなくなるからです。安全に使用するためには脳の報酬回路を制御する必要があり、摂取の間隔を16時間以上開けることで中毒になることを防ぎ、同時に糖質制限のメリットを享受できると思います。高揚感をもたらしストレスやつらいことを忘れさせてくれる食べる喜びを健康的に楽しむためには自分なりの自主規制が必要なのでしょう。
コンビニ受診が犯人?
昨年の医療費が過去60年で初めて対前年減少となりました。毎年2~3%程度増加していた国民医療費が前年度から2~3%台の減少となり、国民皆保険が施行された1961年4月以来異例の珍事とされます。感染症流行に伴い不要不急のコンビニ受診が控えられ、ウイルス干渉による感染症が激減したことも理由でしょう。医療技術の高度化、高薬価医薬品の開発、国民の高齢化に伴う医療費の自然増がこれまでの常識でしたが、興味深いのは受診の抑制が健康悪化につながっていないことです。人口動態統計によると昨年1~10月の死亡者数は前年同期比で14,315人減少しており、こちらも例年にない珍事です。ウイルス対策の強化が他の感染症の死亡者を減らしたと考えられますが、皮肉な見方をすれば医療へのアクセスを絶つことで健康になったとも言えます。過去30年医師の数とガンなどの生活習慣病がパラレルに増加している事実を知るなら医原病の影響は排除できないと思います。コンビニ受診のみならず、栄養剤や風邪薬を気軽に用いる風潮が健康を害していることもやがて明らかになるでしょう。
残るのは虚しさと生活習慣病
高級官僚13人が繰り返し接待を受けた問題で事務次官候補と言われた内閣広報官が辞職しました。相も変わらぬ政官業癒着の馴れ合い金権体質はコロナ禍に苦しんでいる世間とは隔世の感があります。息子を政務秘書官に起用して顔をつないだ上で利害関係が明確な会社に就職させた総理、予算委員会の質疑で菅さんの息子とは知らなかったなどと見え透いた答弁をする高級官僚らの緊張感の無さは嘆かわしいばかりです。夜の銀座でわずか数時間に一人3、40万使う人にとっては7万の接待など物の数ではないでしょうが、標準的な市民感情とは乖離します。金を使うことに意味を見出す虚栄心は貧しさの裏返しでしかなく、過ぎ去ってしまえば華やかな日々は虚しさと生活習慣病しか残しません。人生の成功者ほど豪奢な生活をしているとイメージ操作されますが、執着と失う恐怖にいつも支配されることになります。仏教における三界のように、あらゆる宗教は欲望にとらわれる欲界を最下位に置きます。欲望を超越し物質的条件にもとらわれなくなった時、初めて心の平穏が訪れるのでしょう。