中毒性のない食事


昨日は港町にある旅館に泊まりました。昭和28年から営業しておりかつての日本家屋の懐かしさが漂います。雪の舞う寒い日には石油ストーブの暖かさがしみます。特筆すべきは食事で、夕食も1泊2食6,600円とは思えない豪華さでしたが、とくに懐かしいのは朝食です。皮をカリッと焼かれた魚も絶品ですが、味噌汁も卵焼きも漬物も懐かしく、寒い日本家屋で祖母が作った朝食を思い出します。高い宿に泊まらないのはケチだからですが、商業化以前の懐かしさに触れたいのであれば、生業的な小さな宿に泊まるに限ります。遠くまで行かなくても、派手に散財をしなくても、本当に大切なものが何かを教えてくれる宿こそ良い宿だと思います。消費の自由を謳歌し刺激を求めた日本人は、生活の節度を失い、生活の中に根づく美学さえ失ったと思います。世間ほど外食に興味がないのですが、中毒性のないこうした食事こそ日本人の体質にあっていると感じます。

二兎を追う者


タレントの小島瑠璃子氏の夫である北村功太氏の急逝は、遺書のようなものが見つかったとされサウナ業界に衝撃を与えました。経営していたHabitatは、オリエンタルランド・イノベーションズなどから1.3億ほどの資金を調達した注目スタートアップで、温浴施設向けDX事業、超高品質をうたう会員制サウナ事業を展開しています。サウナブームと新型コロナ対策により急増した高級サウナは過当競争気味ですが、業績不振と資金繰り悪化が噂され累積赤字は 3億超とも言われます。問題はDXツールの開発も、会員制サウナ事業も先行投資が必要なことで、ひとたび業績悪化が噂されれば、すべての動きが逆回転を始め連鎖的に経営難に追い込まれます。バブル経済の崩壊を経験した者なら過熱の渦中でアクセルを踏むことに躊躇しますが、投資家の残酷さは成長スピードの鈍化を許さず、意図せず二兎を追う者になった気がします。

蒸し風呂つながり


東大寺別院阿弥陀寺の石風呂を見に山口に来たついでに、蒸し風呂つながりで指宿の砂蒸し風呂に入りました。海岸に自然湧出する豊富なナトリウム塩化物泉を利用したもので、鹿児島大学医学部の調査によると神経痛・リウマチ・腰痛・五十肩・膝関節痛をはじめ数々の入浴効用が実証されているそうです。幾度とない噴火で生まれた指宿の海岸には80℃ほどの温泉が湧いており、市街地でも数メートル掘れば温泉が湧き出すと言います。一般的な砂より黒く粒子が大きいため、スコップで砂をのせてもらうとずっしりと重く、筋力の弱い人なら自分では脱出できないかもしれません。10分ほどするとじわじわと汗をかきはじめますが、砂の重みで押し付けられる背中が低温やけどになりそうなので15分ほどで出ました。子供の頃砂浜で砂に埋めてもらったのを思い出しますが、さらさらと体から落ちるので不快感もありません。

石風呂消滅の危機


快適に汗をかける石風呂がツボにはまり、この2日間で20か所を見ました。山口県の徳地を中心とした佐波川流域、大分県の緒方川流域の緒方町上自在を中心とした半径5km圏、香川県と愛媛県などに分布します。最も集積するのは緒方川流域ですが、記録が残っていただけであって現存するのは氷山の一角に過ぎないと思います。山口では石や土を重ねたドーム型の石室が中心なのに対して、大分県では地形を利用した横穴式の二段構造で下から火で暖める方式です。また愛媛には石風呂という地名が残りますが、香川ではから風呂と呼ばれます。昨日はGoogleマップを頼りに石風呂を探していて、近くを散歩していた80歳前後の女性に聞いても行ったことはないと言い、別の80歳ぐらいの男性も、庭先に石風呂があるのに入ったこともないし無関心でした。古民家が壊されることにもあせりを感じますが、忘れ去られた石風呂はその前に消滅の危機を迎えています。

イノベーションのジレンマを回避


安い宿に泊まり慣れているので多少の安さでは驚かないのですが、防府で泊まったビジネスホテルは込々4,600円なのに、大浴場が快適でバスタオルとハンドタオルが使い放題で、サウナにはハルビアのストーブが入る北欧式で、1階の中華料理屋からはルームサービスまで取れるというシティホテル並みの内容でした。老朽化に対する追加投資の目途は立っていないでしょうから手放しで喜ぶことはできませんが、長年のデフレに鍛え抜かれた日本の企業が提示する価格とクオリティに、インバウンド客が信じられないと唸るのも当然です。安易に付加価値を追求する企業より、安く良いものを提供する企業を尊敬します。ダイソーやユニクロは、海外ではブランド品として機能するほどの品質です。サイゼリアも含めた日本の企業は、イノベーションのジレンマを回避し、これからも生き残っていくのだと感じます。

キングオブサウナ


昨日は東大寺別院阿弥陀寺の石風呂に行きました。保存会の人により動かされている石風呂は全国的に先月行った岸見と2か所だけです。かつては大分や愛媛、広島県にも多くの石風呂が動いていましたが、この10年でも多くが休業状態になり、お二人のボランティアもいつまで続けられるのかと思ってしまいます。昭和56年に作られたレプリカですが、近くには建築年代の分からない小さな石風呂も残ります。井形に組まれた木を朝5時半から4時間燃やした燃え殻を囲炉裏に移し、水を撒き、近くで採取したショウブ科のセキショウとむしろを敷くと入れます。天井付近の温度は170℃で名物の焼き卵?がつるされます。毛布をかぶり10分も入ると滝のように汗がでますが、さらさらした汗でシャワーを浴びる必要がないのも岸見の石風呂と同じです。とにかく暖まり、同じ構造のスモークサウナがキングオブサウナと呼ばれる理由が分かります。

躊躇なくどこへでも


昨夜は語学留学に渡仏する娘を羽田空港に送り、その足で夜通しN-VANを運転して山口県に来ました。以前なら夜行運転するなど思いもしませんでしたが、いつでも熟睡できる居住空間を備えるN-VANなら、躊躇なくどこへでも行けます。N-VANが来てから旅行に出る回数が増え、月5,000kmペースで距離を伸ばしていますが、軽の商用車なのにこれまで乗ったどの車より疲れないのは意外です。これほど優れた車が100万円台なかばで買える日本人は幸せで、実用上何も困らないのにブランドやデザイン、過剰な性能と見栄という虚構に、法外なエクストラコストを払う気はなくなります。権威付けと洗脳によって多額の追加料金を払わせることで経済が成り立っている以上、それを否定することはできませんが、N-VANに満足すると消費社会に加わる気が減退します。

石風呂を巡る旅


理想のサウナを求めるなかでたどりついた石風呂は、山口県を中心に瀬戸内一帯に、説によっては数千か所あったとされます。伝統的な北欧サウナであるスモークサウナと同じ仕組みの石風呂が、平安時代に川の近くに作られたのは木材を運ぶためですが、海の近くにも見られるのは海藻により蒸気を出すためでしょう。自然の洞窟を利用した石風呂もありますが、大半は人工的に作られたもので、かつては日本中にあった瓦を焼くためのだるま窯に類似した形状です。だるま窯の歴史は安土桃山時代の関西地方の寺に始まるとされますが、そのルーツは古墳時代にさかのぼります。縄文や弥生の人々が野焼きで土器を焼いた時代から、人々が暖を取るためにその熱源を利用するのには、それほど時間がかからなかったはずです。サウナを巡る旅は石風呂のルーツをたどる旅になり、古代の窯の歴史を探る旅路へと向かいつつあります。

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