昨日は旧中山道の下諏訪宿にある明治37年創業の旅館に泊まりました。明治時代から使われる建物のそこかしこに懐かしさを覚えます。気だるい暑さのなか開け放たれた窓から時折心地よい風が抜け、何とも懐かしい気分になります。子供の頃の盛夏の思い出は、今も父方の親戚が住職をする1525年創建の寺で過ごした記憶です。寺のある瀬戸内海の小島での夏休みが原体験になってその記憶と交差します。宿場町の流れをくむ温泉街はご多分に漏れず廃業した旅館が目立ち、日露戦争開戦以来の歴史を知る創業116年のこの旅館もいつまで営業を続けられるのか心配になります。ある時代に適応した業態は時代が代わり環境が変わればやがて淘汰されます。そして疫病の蔓延によりその新陳代謝は不自然なスピードで人々の懐かしい記憶を消し去って行きます。失えば二度と再生することのできない懐かしい建造物への愛着は、歴史的建造物を修復して現代風に活用する回顧趣味を超えて、自分の過去と現在をつなぐリアルな記憶だと思います。トレンドを追う空間デザイナーや建築家は現在を未来へとつなごうとします。しかし今欲しいのは、構えずに素でいられる等身大の過去と現在をつなぐ連綿と続く記憶です。