「ちょっといい」という罠

多くの産業は消費者を育てます。自動車会社なら免許を取って最初に乗る小さな車をライフステージにあわせて大きな高価格車に誘導して利益を出します。以前大きな車に乗っているときは細かな不具合ばかり気になりましたが、安くて小さな車に変えると狭さや騒音も馬力のなさも気にならなくなりむしろ運転が楽しく愛着が増します。小さくして安くすることへの抵抗に一度免疫ができると、高級か否かは幸せや本音の満足とは関係がないことに気づきます。西武百貨店の広告に「ほしいものが、ほしいわ」というキャッチコピーが使われたのは30年以上前の1988年です。バブル経済全盛の当時の日本とは時代背景もその意味するところも違いますが、切実にどうしても手に入れたいものなどありません。すべての商品は相対的なものであり、「ちょっといい」という程度の違いしかありません。ちょっといいに人が反応するのは高級ブランド信奉を刷り込まれているからです。大脳新皮質の働きが強くなると進歩的な幻想に取り憑かれ、商品をステップアップしていかないと気が済まなくなる人間の性質こそが経済成長の原動力だと思います。

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