贅沢の本質

南アルプスの魅力は雄大で、造山運動が今も続いていることを思わせる荒々しい岩壁、豊富な水と稜線を覆う花畑です。とりわけ魅力的なのが、アクセスが悪く長大な稜線に山小屋が少ないために人を寄せ付けない静かな山域という点です。昼間はひたすら距離を稼ぐために筋肉を動かし、夜は都市が失った暗闇と静けさに癒やされる動と静の両面こそが山旅の魅力だと思います。にぎやかだった鳥の声が日没とともにやがて遠ざかり、時折上空を通過するジェット機の音以外は無音の暗闇が広がります。夜中に見上げた満天の星空は非現実的な光景で、テントをたたく雨音さえ贅沢に感じられ、不都合や不快を取り除くことで進化した都市生活が失った本来の居場所を教えてくれます。写真は茶臼岳直下に張ったテントから見た、刻々と表情を変える朝焼けの富士です。下界の蒸し暑さと無縁の寒さに寝袋を重ねたテントからこの景色を見ていると、執着の延長にある贅沢が本質でないことが分かります。

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