歪んだ味覚

食べることは好きですが、関心があるのは美味しく食べることであって美味しいものではありません。生命維持活動であるはずの食事を、食糧生産と都市が娯楽に変え、やがてハレの食事は日常食となり、際限ない欲望が現代人の味覚を麻痺させます。体の内なる声を聞かず、味覚のヒエラルキーを信じ有名店に行列を作ります。しかし本来の味覚は生きるための能力であり、飢餓状態で磨かれ戻ってきます。意図せず5日間何も食べなかったことがあります。旅館経営を始めた頃、仕事の悩みで何も喉を通らなくなりました。5日目になって切実に食べたいと思ったのは、たくわんと味噌汁とご飯で、決して高級店の食事や体に悪そうなラーメン、ジャンクフードではありません。飢餓を経験することなく、いつでも食欲を満たせる現代人は食事を局所的に捉え、正常な味覚を失い、ステレオタイプのグルメ情報に固執します。脳に操られるまま野放図に食べていれば不健康が蔓延するのは不思議ではありません。本当の味覚は自分の体に必要なものを見極める能力だと思います。

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