波長があう人と時間を忘れて話に没頭することはありますが、「寂しい生活」を書いた稲垣えみ子氏ほど共感を覚えた著者はまれです。旅行や料理の著書も読みましたが、自分たちは長年騙されてきたのだという被害者同士のような妙な連帯感さえ覚えます。家電製品を手放し、会社員生活を手放し、2日に1度の銭湯が最大の娯楽という生活は古来より続く一種の隠遁者でしょう。何かを手放すほど自由になり、手放せるものを絶えず探していると言います。2、3日に一度ご飯を炊き、殺菌作用のあるおひつに入れると絶妙に水分を吸い、天日干しした野菜の味噌汁と漬物があれば幸せで、豆腐屋で厚揚げを買った日には素晴らしいご馳走という江戸時代の感覚は正常だと思います。我が家でも赤飯を炊く日は、小豆を水に漬け込む前の晩から食事が楽しみです。書店に並ぶ本の多くはお金を貯める本と使う本ですが、お金なんていくらあっても安心できません。すぐそこにある小さな幸せに気づき、すべての一瞬を大切にする生き方には自由と無限の可能性が広がっているのでしょう。