人より優位に立ちたがる人間が内面に屈折を抱えるように、贅沢な生活を求める気持ちは貧しさの裏返しだと思います。幕末の日本に来た外国人が彼らの基準では貧しい日本人を見て、そこに卑しさや惨めさが微塵もなく、生き生きと生活する姿に驚いた記録が残ります。生活を貧しくするのは、執着により次々と買う贅沢が目的化していつまでも満たされない虚しさであり、日常を豊かにすれば贅沢願望から開放されます。毎日の食事を豊かなものにするのは空腹で、体を健康にしてくれる上に美味しく食べられる空腹は我慢ではなく楽しみに変わります。かつての住まいにあった庭が無くなり、生活に潤いをもたらす植物は玄関横の猫のひたいほどの花壇だけになりました。それでも花を楽しみ収穫したフレッシュハーブをお茶に入れ、植物の成長に日々生命力を感じ、日常を豊かにする恩恵はむしろ庭があったとき以上です。最小限で過ごすことに妙な魅力を感じるのは、人が恩恵を受けるには自分に適したサイズがあり、過剰をそぎ落とした清楚で質素なモノの不足した生活にこそ心の充足を感じるからだと思います。