個人的三つ星

昨日は遠州の小京都、静岡県の森町にある「精進懐石無庵」に行きました。百年以上昔に建てられた古民家を使った完全予約制で、一日1組しか受けない店ながら、夜咄懐石は7,000円と妥当です。谷崎潤一郎の陰翳礼讃にあるような、まだ電灯がなかった時代、西洋文化との不調和をきたす以前の、生活と自然が一体化した、真に風雅な日本人の美意識に回帰する店です。料理は質素で素朴ながら、生活に根ざした芸術的な感性や美意識の心地よさを感じさせてくれます。夕方に到着すると、ご飯が炊かれる竈の見える囲炉裏で梅茶を出され、庭と周囲の山の見える客間で食事をして、茶室で主人の点てる薄茶をいただき、ほぼ3時間の古き良き生活を体感できます。和蠟燭だけが灯る空間は、夜のとばりが下りるとブランドテストのように舌の味覚と触感に集中できます。炊き立てのかまど飯が主役の、茶事懐石こそが究極の日本料理と思わせる個人的三つ星の店です。

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