土に近づく生き方

昨年話題になった映画ノマドランドを見ました。放浪生活をする年配の季節労働者を描いた、何事も起こらないドキュメンタリー風の映画が注目されるのは、65歳以降も働く必要のある米国人が83%という現実があるからです。映画のなかでは存在感を主張しないバンは家であると同時に伴侶であり、それ故に主人公は定住生活に戻らないのかもしれません。お風呂に入らないと気がすまない日本人にとってバンでの流浪生活はハードルが高いものの、自然とつながり人との絆が育まれる漂白の旅は希望の光に見えます。貨幣経済と言うくびきを自らに巻きつけた現代社会の先に生命力を発露する場はありません。この映画に希望を見出すことはできませんが、他方で仕事と家と夫を失った未来に行き場のない主人公は、生き方を選択する点において決して取り残された人々ではないと思います。どこへでも移動できる自由と健康さえあれば、自然とのつながりを感じながら自分をそぎ落としていく生き方は、むしろ清々しさを与えます。あらゆるものを引きずる囚われの人生から抜け出す方法は、土に近づく生き方なのでしょう。

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