米アカデミー賞で作品賞、監督賞、主演女優賞を受賞した話題作「ノマドランド」は社会の周縁部に取り残された人々を描く、ドキュメンタリーとフィクションの境界のない異色作です。仕事と家と夫を失った未来に行き場のない主人公を描きながら、ある種の憧れを観客に抱かせます。中産階級の消費主義と自然と触れ合う流浪の暮らしの対比表現を使いながら、Amazonの倉庫で過酷に働くワーキャンパーのリアルは、格差批判ではなく希望を示しているように見えます。ヴァンとコミュニティと自然以外を捨て、地球とのつながりを感じながら自分をそぎ落としていく生き方は清々しさを与えます。出演キャストに実在のノマドを使い、ノーメイクでマジックアワーの自然光撮影を多用する手法も独特な世界観を作ります。北京生まれの監督クロエ・ジャオの手柄を宣伝に使おうとした中共は、彼女が中国での生活は檻のようで事実は何も知らされていなかったと語ったために上映を取り止めたことも話題になりました。65歳以降働くことなしに生活できる米国人が17%という現実に答えを見出すなら、歳を重ねるほど土に近づく生き方なのでしょう。