
長距離ウォーキングを楽しむ「伊能忠敬界隈」が、老若男女を問わず流行っているといいます。アメリカでは景気低迷など危機的な世相がランニング人口を増やすと言われますが、どちらもブームの背景にあるのは「身体性の回復」だと思います。若者にとってはデジタル以前の世界が持つ、身体というリアリティの再発見であり、中高年にとっては、56歳から測量を始めた伊能忠敬が、長い人生後半における挑戦の象徴に映るのでしょう。現実世界の感覚を取り戻す行為は、人々から仕事を奪い始めたAI革命に対する生存戦略でもあると思います。人間に残される最後の役割は、感覚器を使って現実世界と接続し、認識するデバイスという側面だけかもしれません。近代観光の主題である「どこへ行ったか」より、「どのように移動したか」という物語は極めて私的であり、自分基準の消費への回帰欲求のような気がします。